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幸兵衛の小言

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海江田の指示は予防ではなく事故後の対処、しかも万全ではない!

どうも、マスコミが、具体的な内容に触れないので、あえて書く。
 海江田が“確認できた”と言っているのは、原発事故の「予防」ではなく、その言葉を借りるなら“シビアアクシデント”=「甚大(重大)事故」の後の対策である。 そもそも、なぜ“シビアアクシデント”などという英語で表現しなくてはならないのか。老朽化原発のことを“高経年化原発”と言い換えるのと同じ作為的な誤魔化しである。「重大事故の事後対策は大丈夫」と言うと、「重大事故にならない対策は大丈夫か?」という疑問を招くからだろう。

 さて、6月7日に、海江田の名で「平成23年福島第一原子力発電所事故を踏まえた他の原子力発電所におけるシビアアクシデントへの対応に関する措置の実施について(指示)」という通達が、各電力会社に出された。

その指示の内容は、次の5点。

1.中央制御室の作業環境の確保
2.緊急時における発電所構内通信手段の確保
3.高線量対応防護服等の資機材の確保及び放射線管理のための体制の整備
4.水素爆発防止対策
5.がれき撤去用の重機の配備


 あくまで重大事故の後の対処に関する指示なので、「耐震強化」などは含まれない。そもそも、3.11規模の地震に耐えるには2000ガル(地震による揺れを表わす加速度の数値)レベルの耐震性求められるだろうが、そうなれば既存の原発は稼動できないし、新規の原発建設も不可能なはずだ。地震列島日本における原発建設は、そもそも無理があるのだ。

 海江田の指示から11日後の6月18日に、原子力安全・保安院が、「各電気事業者等から実施状況について報告を受け、原子力保安検査官が立入検査等を行い、シビアアクシデントへの対応に関する措置の実施状況について厳格な確認を行った。」結果が報告された。

 念のため、海江田の指示に関する文書を原子力安全・保安院のサイトからダウンロードしたPDFからコピーして紹介する。原子力安全・保安院サイトの該当文書ダウンロードページ


        経 済 産 業 省
                            平成23・06・07原第2号
                            平成23年6月7日
別記宛て(各通)                    経済産業大臣 海江田 万里

平成23年福島第一原子力発電所事故を踏まえた他の原子力発電所におけるシビアアクシデントへの対応に関する措置の実施について(指示)

 経済産業省(以下「当省」という。)は、「平成23年福島第一・第二原子力発電所事故を踏まえた他の発電所の緊急安全対策の実施について(指示)」(平成23年3月30日付け平成23・03・28原第7号)において、各電気事業者等に対し、同事故を踏まえ、津波により3つの機能(交流電源を供給する全ての設備の機能、海水を使用して原子炉施設を冷却する全ての設備の機能及び使用済燃料貯蔵槽を冷却する全ての設備の機能)の喪失を想定した緊急安全対策の実施を指示し、各電気事業者等からその実施状況の報告を受け、厳格な確認を行いました。その結果、各電気事業者等において、緊急安全対策が適切に実施されていることを確認し、炉心損傷等の発生防止に必要な安全性は確保されているものと判断しました。 今般、平成23年に発生した福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所事故に係る原子力災害対策本部において、同事故に関する報告書を取りまとめ、同事故を収束するための懸命な作業の中で抽出された課題(シビアアクシデントへの対応)から、万一シビアアクシデント(炉心の重大な損傷等)が発生した場合でも迅速に対応するための措置を整理しました。 以上を踏まえ、当省は、これらの措置のうち、直ちに取り組むべき措置として、各電気事業者等に対し、福島第一原子力発電所以外の原子力発電所において下記の事項について実施するとともに、その状況を平成23年6月14日までに報告することを求めます。

1.中央制御室の作業環境の確保
 緊急時において、放射線防護等により中央制御室の作業環境を確保するため、全ての交流電源が喪失したときにおいても、電源車による電力供給により中央制御室の非常用換気空調系設備(再循環系)を運転可能とする措置を講じること。

2.緊急時における発電所構内通信手段の確保
  緊急時において、発電所構内作業の円滑化を図るため、全ての交流電源が喪失したときにおける確実な発電所構内の通信手段を確保するための措置を講じること。

3.高線量対応防護服等の資機材の確保及び放射線管理のための体制の整備
 緊急時において、作業員の放射線防護及び放射線管理を確実なものとするため、事業者間における相互融通を含めた高線量対応防護服、個人線量計等の資機材を確保するための措置を講じるとともに、緊急時に放射線管理を行うことができる要員を拡充できる体制を整備すること。

4.水素爆発防止対策
 炉心損傷等により生じる水素の爆発による施設の破壊を防止するため、緊急時において炉心損傷等により生じる水素が原子炉建屋等に多量に滞留することを防止するための措置を講じること。

5.がれき撤去用の重機の配備
 緊急時における構内作業の迅速化を図るため、ホイールローダ等の重機を配備するなどの津波等により生じたがれきを迅速に撤去することができるための措置を講じること。


別記
北海道電力株式会社 取締役社長 佐藤 佳孝
東北電力株式会社 取締役社長 海輪 誠
東京電力株式会社 取締役社長 清水 正孝
中部電力株式会社 代表取締役社長 社長執行役員 水野 明久
北陸電力株式会社 取締役社長 久和 進
関西電力株式会社 取締役社長 八木 誠
中国電力株式会社 取締役社長 山下 隆
四国電力株式会社 取締役社長 千葉 昭
九州電力株式会社 代表取締役社長 眞部 利應
日本原子力発電株式会社 取締役社長 森本 浩志
独立行政法人日本原子力研究開発機構 理事長 鈴木 篤之



 相変わらずフクシマは「津波」による事故であり、地震による事故ではないと言わざるを得ないのだ、原子力村は。地震による配管などの破損や亀裂などがないはずがない。そして、戦中の「大本営」のように、マスコミもその部分を突かないのが腹立たしい。 そんなに電力会社の広告が欲しいのか。

 さて、この海江田指示の結果を確認した、という6月18日の原子力安全・保安院文書の一枚目も紹介する。


福島第一原子力発電所事故を踏まえた
他の原子力発電所におけるシビアアクシデントへの対応に関する
措置の実施状況の確認結果について
                           平成23 年6 月18 日
                           原子力安全・保安院


1. 経緯
 原子力安全・保安院(以下「当院」という。)は、東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故を踏まえ、各電気事業者に対し、津波により全交流電源の喪失を想定した緊急安全対策の実施を平成23年3月30日に指示し、各電気事業者等から実施状況の報告を受け、厳格な確認を行った。その結果、同年5月6日、各電気事業者等において緊急安全対策が適切に実施されていると判断した。
同年6月7日、原子力災害対策本部においてとりまとめられた東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故に関する報告書においては、各電気事業者等の緊急安全対策の実施状況が適切であることを原子力安全・保安院により確認されているとしたうえで、同事故を踏まえ、万一シビアアクシデントが発生した場合でも迅速に対応する観点から措置すべき事項を整理した。
以上を踏まえ、当院は、同年6月7日、これらの措置のうち、直ちに取り組むべき措置として、各電気事業者等に対し、東京電力株式会社福島第一原子力発電所以外の原子力発電所においてシビアアクシデントへの対応に関する事項について実施するとともに、その状況を報告することを求めた。
各電気事業者等から実施状況について報告を受け、原子力保安検査官が立入検査等を行い、シビアアクシデントへの対応に関する措置の実施状況について厳格な確認を行った。



 原子力安全・保安院の確認結果の例として、五項目のうちの四番目「水素爆発防止対策」を一部引用したい。
 この対策で安全確認できた、と言えるのかどう、お読みの方もお考えいただきたい。


④ 水素爆発防止対策
○ 炉心損傷等により生じる水素が多量に滞留しうる箇所が選定され、排気、消費等により、水素の爆発による施設の損壊を防止するための措置が策定又は計画されていること。
○ 沸騰水型原子炉の場合には、以下の対策の実施手順等が確認されていること。
・緊急時に自然排気により滞留水素の排出を行う場合にあっては、原子炉建屋に適切な大きさの排気口が水素の滞留防止に適切な高所に設けられること。
・原子炉建屋に水素検知器及び原子炉建屋ベント設備の設置が計画されていること。
○ 加圧水型原子炉の場合には、以下の項目が確認されていること。
・緊急時にアニュラス排気設備等により外部に水素を放出する場合にあっては、全ての交流電源が喪失した場合にも、これを運転するために必要な電源が確保され、また運転に必要な作業手順が整備されていること。
・中長期的措置として、触媒式水素再結合装置等、格納容器内の水素を処理して濃度低減を図る装置の設置が計画されていること。
・緊急時にイグナイタを運転して格納容器内の水素を処理する場合にあっては、全ての交流電源が喪失した場合にも、これを運転するために必要な電源が確保され、また運転に必要な作業手順が整備されていること。

(確認結果)
・(沸騰水型原子炉(BWR)の対応)
・ 全ての交流電源が喪失した時において、炉心損傷等により発生した水素が原子炉建屋内に漏れ出した場合、原子炉建屋内への多量の水素の滞留を防止するため、原子炉建屋屋上に穴あけにより排気口を設けることとし、穴あけ作業に必要な資機材(ドリル等)を配備し、または手配済みであることを確認した。また、水素が滞留する前に作業が完了できること等、作業の安全性や確実性を十分に考慮した手順書を整備するとともに、訓練等を通じ継続的に改善することを確認した。
・ 穴あけ作業に関する訓練への立会い等により、原子炉建屋屋上に梯子を通じて登り作業資機材を運び上げる作業、建屋天井を模擬したコンクリートに資機材を用いて穴を開ける作業が実施可能(事例として、事務所出発から穴あけ完了までに約80分)であることを確認した。
・ 中長期的措置として、原子炉建屋の頂部に水素ベント装置を設置するとともに、原子炉建屋内に水素検知器を設置する計画であることを確認した。

・ (加圧水型原子炉(PWR)の対応)
・ 大型ドライ型格納容器を有する原子炉については、炉心損傷等により発生した水素が格納容器からアニュラス(注2)部に漏れ出した場合、アニュラス排気設備により水素を外部に放出する手順としている。全ての交流電源が喪失した場合にアニュラス排気設備を運転するため、緊急安全対策により配備された電源車等の電源により十分な供給余力が確保されていることを確認した。また、電源車等からの給電によりアニュラス排気設備を運転するための手順を整備していることを確認するとともに、訓練への立会い等により作業が確実に実施可能であることを確認した。
・ 中長期的措置として、電源を必要としない静的触媒式水素再結合装置等、格納容器内の水素濃度を低減させる装置を格納容器内に設置する計画であることを確認した。



 沸騰水型原子炉への「対策」に関する資料として、次のような写真と図が添付されている。
海江田の指示は予防ではなく事故後の対処、しかも万全ではない!_e0337865_16392312.jpg

  果たして「緊急時」に、ドリルで屋上に穴を開ける作業が、どれだけ大変か、フクシマを見れば分かりそうなものだ。 まず、地震や津波で建屋そのものがどんな状況になっているかも分からない。もし、建屋の破損が軽微であっても、放射能がすでに蔓延している状態で、素早くドリルで穴が開けられるのだろうか。「手順書」を作り「訓練」をするらしいから、近隣住民は、その訓練を確認すべきだろう。

 また、玄海原発などの加圧水型原子炉への「対策」の資料がこれだ。
海江田の指示は予防ではなく事故後の対処、しかも万全ではない!_e0337865_16392460.jpg


 注意すべきなのは、「中長期対策」である。早い話、この対策はすぐには実施しないのである。本来実施すべき対策なら、少なくともそれを実施してからの再稼動ではないのか。事故が起こったら、「やるつもりだった・・・・・・」では済まされない。

 他の項目に関する「厳格な確認」の結果に興味のある方は、原子力安全・保安院のサイトで該当文書をご覧いただきたい。原子力安全・保安院サイトの該当文書ダウンロードページ

 繰り返すが、玄海原発の立地する佐賀県や玄海町が運転再開の根拠にしている、国(経済産業省)が保障する「安全」の内容は、事故後の対策のある限られた項目であり、事故の予防策ではない。耐震性に関しては、何ら強化策は実施されていないし、国も指示していない。“シビアアクシデント”があることを、前提としているのだ。その事故後の対策にしても、素人の私にさえ疑問に思える内容なのだ。
 大事なのは、“シビアアクシデント”が起こらないように予防することである。フクシマの検証が終わらない限り、本来原発は稼動すべきではない。

 玄海町は、もう原発を捨てては町の財政が成り立たないレベルに至っているかもしれない。九州電力の子会社から仕事を請け負っている建設会社の株主である町長を含め、目の前の生活のために多くの住民の方が「不安」を抱えながらもやむなく再運転に賛成しているのだろう。しかし、万が一の事故は、フクシマでの経験の通り、町の境界など越えて拡散する。事故被害を想定すると、もはや一つの町、県の問題ではない。

 漁業をする海を失い、原発での労働や原発で働く人たちを見込んだ仕事で生計を立てている原発立地地域の住民の方の生活を保障して、長期的な視点で脱原発政策を論議すべき時である。フクシマのように事故が起こった場合に膨れ上がるさまざなま対策費用(我々国民の税金もあてがわれる)と、将来の安全なエネルギー政策を展開するために払われる費用と、どちらが“生きたお金の使い方”か、考えるべきだろう。
Commented by 山昭男 at 2011-07-12 13:34 x
保安院の水素爆発防止対策について一度この通りやって見なさいと言いたい。原子炉建屋内に水素が滞留する前に建屋屋上に電気ドリルで水素の排気口を80分以内であければ滞留している水素はどんどん大気中へ放散していくと公文書で表明しております。
また漏れないはずの原子炉格納容器からの漏れを想定したPWR のアニュラスとかアニュラス排気装置とか電源は別途用意するから大丈夫。大丈夫でなかった今回の全交流電源喪失に対する教訓が全く生かされていない。
6月17日に保安院の寺坂院長に面会して対策の不備と、水素爆発の本当の怖さを申し上げましたが、翌日づけの公文書は既に出来上がっていたらしく、話しを聞いていただいたのみで、役に立ちませんでした。力不足スミマセン。
 

Commented by 小言幸兵衛 at 2011-07-12 14:11 x
コメントありがとうございます。
一市民の素朴な疑問を書かせていただいたのですが、専門家の方の提言にも彼らは聴く耳を持っていないのですね。残念なことです。
“菅ピューター”の「居座りプログラム」が稼動した一つの結果として、「ストレステスト」が突然浮上しましたが、ほとんど真っ当な対応が行われる可能性はないのだとうと踏んでいます。
中立的な専門家がコミットせず、現在の体制で行うのなら、建前として「安全」のお墨付きを確認する儀式にしかなららないでしょうね。
仕組みを含めて変わるべき時なのでしょう。

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by koubeinokogoto | 2011-07-05 15:25 | 原発はいらない | Comments(2)

人間らしく生きることを阻害するものに反対します。


by 小言幸兵衛