重水素実験に賛成する三人の市長は、原発誘致と同じ間違いをしている。
毎日新聞サイトの該当記事
重水素実験:岐阜の3市同意 核融研と協定締結へ
毎日新聞 2013年03月23日 02時09分
国の核融合科学研究所(岐阜県土岐市)が計画している「重水素実験」について、土岐、多治見、瑞浪の3市は22日、今年度内の実験実施の同意を求める要望書を、3市長連名で古田肇知事に提出した。県は地元3市の意向を尊重する姿勢を示しており、実験実施に必要な環境保全に関する協定書と実験同意書が年度内にも核融研と県、3市により調印される見通しとなった。【小林哲夫】
多治見市の古川雅典市長は同日の記者会見で同意を表明し、「総合的に民意の判断をした。首長として大きな責任を負う」と述べた。市議会に実験の危険性についての調査と見解表明を求める請願を、同市議会が同日、不採択にしたことなどを理由にあげた。土岐、瑞浪両市はすでに同意を表明していた。
重水素実験は、重水素を使い1億2000万度の超高温のガス(プラズマ)生成を目指す。太陽で起きている核融合反応を炉の中で実現する核融合発電へのステップと位置づけられる。
核融合発電は原子力発電に代わる仕組みとされる。07年に核融研の安全評価委員会が「安全管理計画は妥当」と答申したが、東日本大震災の発生で安全管理計画を見直し、地元説明会などを開いてきた。
一方、多治見市の市民グループなどは実験に反対して署名活動を展開した。
同市が実施したパブリックコメントには1421件の意見が寄せられ、うち実験に肯定的な意見が58%、反対が41%だった。
土岐、多治見、瑞浪の三市の行動は、かつて原発誘致で経済的なメリットを得ようとしてきた地方行政の過ちを繰り返す愚行としか言えない。「パブリックコメントで肯定的な意見が58%」などというアテにならないデータを背景にしているようだが、どんな情報を得てどんな「パブリック」な人がコメントしたものか、まったく怪しいかぎり。原発の「公聴会」が、どれほど原子力ムラの“やらせ”だったかを思い出すまでもない。賛成陣営がたくさん肯定的なコメントを発信すれば、過半数など超えるだろう。
この問題は、多数決で決めるようなものではない。日本の原発は、然るべき専門家の声など無視され、政治家と自己の利益を求める一部の産業人たちの独走で、ここまで来たことを忘れてはならないだろう。
もし将来、「核融合発電」による大きな人命と自然を破壊する事故などが発生したら、この三人の市長の名を忘れるてはないらないと思うし、そんなことにならないよう、今のうち愚行を止めなければならない。
「パブリックコメント」より、もっと重要な「コメント」は、ノーベル賞受賞者から寄せられていたのに、古川多治見市長は、世界の頭脳からの警告を“ご意見として、うけたまわった”、が、彼の市政にはまったく反映しなかったようだ。
毎日新聞サイトの該当記事
重水素実験:核融合研の計画に小柴さん「反対」の手紙
毎日新聞 2013年03月01日 01時39分
核融合科学研究所(岐阜県土岐市)が計画している重水素実験に対し、02年にノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊さん(86)が反対する見解を記した手紙を、隣接する同県多治見市の古川雅典市長に送付していたことが28日、分かった。「多治見を放射能から守ろう!市民の会」の井上敏夫代表(63)の依頼を受けて送ったという。
◇多治見市長に手紙
手紙には「現在使われている核分裂の発電施設から発生する中性子の10倍も高いエネルギーの中性子が出ることを防ぐ方法が全くない」などと記され、小柴さんは毎日新聞の取材に「現状での実験は時期尚早」と話した。
実験は、重水素を使って1億2000万度の超高温のガス(プラズマ)を作ることが目標。太陽で起きている核融合反応を、炉の中で実現する核融合発電に向けた基礎研究として行う。土岐、多治見、瑞浪の地元3市は今年度中に実験開始に同意する方向だが、反対住民は約2万人の署名を古川市長に提出する準備を進めている。
手紙について古川市長は「ご意見として、うけたまわりました」とコメントした。【小林哲夫】
「核融合炉」の危うさは、後述するが、以前に震災復興予算から、核融合発電の研究のための国際熱核融合実験炉(ITER)研究支援事業に42億円が“不正”に流用されていたというニュースを紹介したことがある。
2012年10月19日のブログ
その際に、原子力資料情報室(CNIC)のサイトにある「ITERは希望の星ではない」という記事も紹介したので、ご興味のある方は、CNICのサイトもご覧のほどを。
原子力資料情報室サイトの該当ページ
その中から一部だけ引用しておきたい。
■核融合はどんなものですか。
□水素の原子核が反応して、大きなエネルギーが放出されることを核融合といいます。水素には、原子核の性質が異なる3つの同位体があります。普通の水素(1H)、重水素(2H、D)と三重水素(トリチウム、3H、T)です。
■太陽で核融合が起こっていますか。
□太陽の熱源は核融合です。太陽の中では、普通の水素が核融合を起こしています。水素が大量に集まり、起こりにくい反応が続いています。地上で太陽は再現できません。
■「核融合炉」とはどんなものですか。
□核融合炉は、核融合によって発生するエネルギーを用いて発電する設備です。ITERはそれを実現するための実験炉です。核融合炉内では、高温の水素原子核同士の核反応(熱核反応)が起こらねばなりません。
■核融合炉はどうすれば実現できますか。
□起こりやすい核反応は「D-T反応」です。重水素とトリチウムが反応してヘリウムと高速中性子が生じます。反応で発生するエネルギーの8割を中性子が持ち出します。核融合炉では、中性子を冷却材に吸収させ、吸収されたエネルギーを水に伝え、そこで発生する水蒸気でタービンを回して発電します。トリチウムの製造を考えると冷却材として、リチウムを含む物質を用いねばなりません。
リチウムはナトリウムと似た性質をもつ金属です。溶融リチウムを冷却材に用いれば、溶融ナトリウムを冷却材に用いる高速増殖炉と核融合炉は似てきます。
■燃料はどのように用意するのですか。
□重水素は水素に0.015%の割合で含まれていて、エネルギーさえあれば純粋な重水素が得られます。問題はトリチウムです。
トリチウムを得るには、リチウムを遅い中性子で照射する以外の道はありません。出力100万キロワットの核融合炉を1日運転するには、0.4キログラムのトリチウムが必要です。半減期が12.3年と短いためこのトリチウムの放射能の強さは非常に高いのです。低エネルギーベータ線を放出するトリチウムの放射能毒性の評価は難しいのですが、このトリチウムの100万分の一を水の形で口から摂取するとき、ヒトの健康に重大な影響をおよぼすおそれがあります。
昨年10月のブログでは、高木仁三郎さんの著書からも引用したが、再度紹介したい。
『科学は変わる-巨大科学への批判-』で核融合について書いた部分の引用。
この本は、1979年に東洋経済新報社の東経選書として発行された。本が書店に並んだ頃にスリーマイル島事故が起こり、事故を予言した書として話題になった。その後チェルノブイリの翌年1987年に社会思想社から現代教養文庫として発行。残念ながら現在は古書店で入手するしかないが、ぜひ再刊を望みたい好著である。私はこれまでも本書から「マンクーゾ報告」などを引用してきた。
さて、「核融合」について、高木さんはどう書いていたか、確認したい。
核融合への批判は槌田敦が詳しく展開していますが、槌田によりながら、核融合のもたらす歪みについて考えてみましょう。
「無尽蔵エネルギー源」といわれながら、核融合は、多様な希少資源に依拠した技術です。「無尽蔵」といわれるゆえんは、主たる燃料である重水素が海水中に存在することにありますが、海水中から多量に重水素を取り出すのも容易なことではなく、エネルギー収支的にも成算のあるものか、槌田は疑問を提出しています。重水素の問題はさておくとしても、現在想定されている核融合技術は、重水素と三重水素の融合に基づくものであり、その三重水素の製造は、リチウムの原子核反応によって可能となります。つまり、リチウムも核融合の一つの燃料と考えられるわけですが、そのリチウムはよく知られた希少資源の一つです。
リチウムの産出地はきわめて偏在化しており、しかも推定される利用可能な資源量は絶対的にきわめて少ないのです。世界といわず、ほんの数カ国の“先進国”が、本格的な核融合の発電を実現化するようになれば、リチウムは底をついてしまうはずです。
原発は、本来地球に存在しなかったものを燃料とし、核融合は、希少資源を必要とし、太陽と同じ論理でエネルギーを生み出そうとしている。そして、どちらも原子核反応を伴う技術に頼っているのだ。放射能とは切っても切れない手法なのである。その危険性は推して知るべしだ。
岐阜県の三市の首長は、小柴さんや高木さん、そして、今回も新聞等で実験に反対コメントを表明している槌田さん達の意見を、まともに聴くべきだ。そして、この問題について反対の「コメント」や記事を掲載しないメディアは、新たな「核融合ムラ」の仲間とみなすしかないだろう。日本からジャーナリズムという言葉が死語になっていきつつあるが、“マス”がだめなら“ミニ”でもブログでも何でもいいから、この愚かな試みに明確に「No!」と言うべきだろう。
まだ実験が始まる前の今、“太陽を人工的につくる”なとど言う“神に背く”無謀な行為を、フクシマを経験した日本は、止めなければならない。
小柴さんが指摘しているように、高いエネルギーの中性子が出るのを防ぐ術がない、などが問題です。
トリチウムのみを問題視しているのではなく、試み全体に危険性を防ぐ準備ができていない計画だと思います。
次に同様に名無しで一方的なコメントがあった場合は、削除しますので、ご了解ください。