NHK問題と同根—“公共の福祉”を削除した自民党憲法改悪案。
しかし、これも、安倍の取り巻きばかりを選任した必然的な結果である。
その背景に共通するのは、自民党の憲法改正(改悪)案においても露骨に示された軍国主義化である。いわば、この度の舌禍事件と同根にあるのが、安倍自民党の軍国化精神なのである。
「公共放送」と言う言葉の「公共」について、実は自民党は憲法改正案においても、この言葉をできるだけ、自分達に都合よく替えようとしている。
去年の憲法記念日に、自民党の憲法改正案の問題点について書いた。2013年5月3日のブログ
まだ、自民党の改正草案をご覧ではない方は、「Q&A」を含め、現行憲法と対比した草案のPDFを下記からダウンロードできるので、ご覧のほどを。
自民党サイトの該当ページ
現行憲法の「第三章 国民の権利及び義務」の最初の部分は次の通り。
第三章 国民の権利及び義務
第十条 日本国民たる要件は、法律でこれを定める。
第十一条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。
第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
② 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
③ 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
次に自民党案の「第三章」はこうだ。
第三章 国民の権利及び義務
(日本国民)
第十条 日本国民の要件は、法律で定める。
(基本的人権の享有)
第十一条 国民は、全ての基本的人権を享有する。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利である。
(国民の責務)
第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力により、保持されなければならない。国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない。
(人としての尊重等)
第十三条 全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。
(法の下の平等)
第十四条 全て国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、障害の有無、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
2 華族その他の貴族の制度は、認めない。
3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に
限り、その効力を有する。
現行憲法の第十二条、
“この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ”という内容には、国民の権利の行使が、「公共の福祉」のためであることを規定している。
しかし、「国民の責務」と題された自民党案の第十二条
“この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力により、保持されなければならない。国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない”は、権利行使の条件について規定している。これは、権利行使のあるべき姿ではなく、あくまで、権利の適用範囲に関する制限事項なのである。
同じ「公」のつく言葉だが、現行憲法の「公共の福祉のため」という目的から、「公益及び公の秩序に反してはならに」という制限の定義に、十二条を替えているのだ。
三省堂の「新明解国語辞典」から。
公共
社会一般の人びと(に関すること)。「—事業・—の建物」
【—性】公共の生活(利害)にかかわる度合。「—が高い(強い)」
福祉
[「祉」も、幸福の意]満足すべき生活環境。「社会—」
公益
公共の利益。「—性」⇔私益
【—法人】営利追求ではなく、公益を目的とする社団(財団)法人。
「学校法人」「宗教法人」「社会福祉法人」など。
だから、「公共の福祉のため」とは、「社会一般の人びとの満足できる生活のため」を意味する。
しかし、「公益」は、字義の通りなら、「社会一般の人びとの利益」となるが、「利益」であって、「生活」ではない。
そして、自民党案には、「公」→「国家」→「政府」(政権与党)という転化を意図しているように思えてならないのだ。
「公共の福祉」には、何ら「国家」や「政府」に転化する言葉の“スキ”はないが、「公益及び公の秩序」という言葉には、“お上”というニュアンスが含まれているのではなかろうか。
基本的人権を行使する目的を「公共の福祉」にする憲法と、権利行使に伴う責務が「公益及び公の秩序」に反しないように定義する憲法の、どちらが人間らしくあって、どちらが生産的で未来志向かは、それほど考えなくても分かるだろう。
第9条以外にも自民党案は、あの暗い戦前の警察国家復活につながる改悪案を散りばめている。
そして、こういった憲法改正(改悪)ができやすいように、国会での三分の二、というハードルを下げるべく、第92条を変えようとしている。
まるで、あの戦争前の「国家総動員」体制へ逆行させようとでもするかのようなを安倍政権の行動こそが、「公共の福祉」に反するのである。もちろん、NHK新会長や新経営委員の発言が外交面で悪影響を与えるのなら、間違いなく「公益」に反する行為でもある。