小説の世界が現実化-「パナマ文書」を機に、納税者は怒りをぶつけよう!
名前の挙がった法人の責任者は、「合法」を主張し、「脱税目的ではない」と言うだろう。また、海外企業とのビジネス上の必要性からオフョア法人を設立した、とも答えるだろう。
合法か違法か、という論議も大事だが、「パナマ文書」を機に、税の不公平を問題にすべきだと思う。
一般市民と大企業の間、お金持ちとそうじゃない一般庶民との間に、間違いなく税の不公平があると、私は思っている。
また、オフショア法人は、暴力団、マフィアのマネーロンダリングのためにも使われる。
そもそもオフョア法人とは、自国の法律が及ばないよう海外に本拠を置く会社であり、そんな会社を設立すること自体が、「李下に冠を正す」ことであり、「瓜田に履を納れる」行為である。
このニュースを知って、すぐに思い浮かべたには、ジョン・グリシャムの小説『法律事務所(The Firm)』だ。
簡単に筋書きを書くなら、こうなるかな。
ハーバード大学の法科を優秀な成績で卒業見込みのミッチ・マクディーア(映画ではトム・クルーズが演じた)には、いろいろな法律事務所から誘いが来たが、彼は、好待遇で熱心に誘ってくれたメンフィスの中堅法律事務所に就職する。彼と妻には住居とベンツが与えられ、給料に加えて多額のボーナス、そして2年後の昇給も確定していた。
しかし、その事務所では先輩の弁護士が謎の死を遂げていた。そして、事務所はFBIの監視下にあり、ミッチはFBIに協力することになった。
生命の危険もある中で調査を重ねた結果、同事務所がタックスヘイヴンのケイマン諸島を利用して企業の脱税に協力していた。そして、事務所を隠れ蓑としてマフィアがマネーロンダリングをしていたことが判明するのだった・・・・・・。
今回「パナマ文書」に関わる法律事務所モサク・フォンセカは、まるで映画の法律事務所と同じような役割を果たしていたのではなかろうか。
そして、情報をリークした人物には生命の危機があっただろうし、コンタクトを受けたジャーナリストも危険を覚悟で、情報源を守るために行動していたと思われる。
まさに、ミステリ小説(フィクション)の現実版(ノンフィクション)のような事件なのである。
では、小説ではなく、どんな現実があったのかについて、「ニューズウィーク日本版」から引用したい。
「ニューズウィーク日本版」の該当記事
パナマ文書はどうやって世に出たのか
リーク元と接触した南ドイツ新聞の記者が明かす緊迫のやりとり。果たしてその正体は?
2016年4月6日(水)19時46分
小林恭子(在英ジャーナリスト)
パナマの法律事務所「モサク・フォンセカ」から流出した、金融取引に関する大量の内部文書。これを元に「パナマ文書リーク」の報道記事が続々と出ている。
いったいどうやって情報がメディアの手に渡り、各社の報道につながったのか。
ウェブサイト、ニーマン・ラボ(4月4日付)とワイヤード(4月4日付)の記事から、要点をまとめてみたい。
法律事務所の内部文書は1977年から2015年12月までの期間のもので、1150万点に上る。文書のサイズは2.6テラバイトに及ぶという。ウィキリークスの手によって世に出た米外交文書リーク(「ケーブルゲイト」、2010年)が1.73ギガバイトであったので、これの1000倍以上になるという。
1150万の文書ファイルには480万の電子メール、100万の画像、210万のPDFが入っていた。
経緯は
2014年末、ある人物が南ドイツ新聞の記者に暗号化されたチャットを通じて連絡をつけてきた。記者の名前はバスチアン・オベルマイヤー(Bastian Obermayer)。その人物は「犯罪を公にしたい」と言ったという。実際に顔を合わせず、連絡は暗号化されたチャンネルのみでだった。そうしなければ「命が危なくなる」からだった。
暗号化されたチャットをその都度消去
オベルマイヤー記者とリーク者は常に暗号化されたチャンネルで連絡を取り合い、どのチャンネルを使うかは時々変えた。それまでのコミュニケーションの内容をその都度、削除したという。暗号アプリの「シグナル」、「スリーマ」や、PGPメールなどを使ったというが、オベルマイヤーはどれをどのように使ったかについて、ワイヤードに明らかにしなかった。
新たなチャンネルで連絡を始める際には一定の質問と答えを用意し、相手がその人物であることを互いに確認した。
文書の一部を受け取った南ドイツ新聞は非営利組織の「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ、ワシントンにある)に連絡した。ICIJは過去にも大型リークの分析を担当した経験があったからだ。ICIJのスタッフはミュンヘンにある南ドイツ新聞に出かけ、どう処理するかを話し合ったという。
この間、ファイルは少しずつ南ドイツ新聞に送られていた。メールで送るには大きすぎるが、どうやって送られたのかについて、南ドイツ新聞はワイヤードに明らかにしていない。
次に、ICIJのデベロパーたちがリーク文書を検索するサーチエンジンと世界の報道機関がアクセスできるURLを作った。サイトには報道機関の記者たちがリアルタイムでチャットできる仕組みも作られていた。記者同士がワシントン、ミュンヘン、ロンドン、ヨハネスバーグなどに集い、情報を交換もした。
ICIJによると、リーク文書をそのまま公表する予定はないという。ジャーナリストたちが責任を持って記事化するよう、望んでいるからだ。
情報源を守るためにHDも破壊
リーク者を守るため、南ドイツ新聞のオベルマイヤーはリーク者との連絡用に使った電話やラップトップのハードドライブを破壊した。「念には念を入れたかった」。今でもリーク者が誰であるかは知らない状態だ。
ワイヤードはメガリークの新たな時代が始まっている、という。
ニーマン・ラボの記事によると、受け取った情報の分析は南ドイツ新聞ばかりではなく、フランスのルモンド紙、アルゼンチンのラ・ナシオン紙、スイスのゾンタ―グツァイトゥング紙、英国のガーディアンやBBCなどが協力して行った。プロジェクトにかかわった記者は約400人。世界76か国の100以上のメディア組織が協力したという。
日本では共同通信と朝日新聞がこのプロジェクトに参加した。
さらに詳しく知りたい方は「マッシャブル」の記事(英語)もご参考に。
[執筆者]
小林恭子(在英ジャーナリスト)
英国、欧州のメディア状況、社会・経済・政治事情を各種媒体に寄稿中。新刊『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス(新書)』(共著、洋泉社)
海外で「メガリークの新たな時代」が始まることで、かつては小説の中だけの物語が、現実味を帯びてくる。
しかし、間違っても、日本の新聞記者に情報をリークしようと思う者はいないだろう。
納税者である国民の怒りが爆発し、アイスランドの首相は辞任した。
しかし、オフショア法人との関係が指摘されている中国やロシアの為政者は、その地位を保つだろう。
なぜなら、それらの国は民主主義の国家とは言いにくく、あえて言うなら独裁国家に近いから。
では、日本は・・・・・・。
納税者として、あらためて、考える必要がある。
消費税増税は、福祉や被災地対策に回ったのか?
いや、消費税増税は、法人税減税につながっただけである。
加えて、以前記事で書いたが、日本の大企業には、あのトヨタでさえ長年税金を払うことがなかったように、さまざまな税制面の優遇措置がある。
2014年12月19日のブログ
消費税を10%に上げる前に、政府がすべきことは、いくらでもある。
それは、富める者から、適正な税を徴収することであり、脱税という犯罪を厳重に取り締まることではないか。
朝日新聞は、ICIJの事務局長ジェラード・ライルのコメントを含む記事を掲載した。
ライル事務局長のコメントを一部引用する。(太字は管理人)
朝日新聞の該当記事
タックスヘイブンの売りは秘密性です。だからこそ、その秘密を白日の下に晒(さら)す私たちの報道は、それに大きなダメージを与えています。
今回のパナマ文書報道で、私たちはなぜ公職者に焦点を当てたのか。それは私たちが義務を負っているからです。ジャーナリストとして、こうした文書を入手することは、公益上の特別な義務を負うことになります。公益に資するために最も簡単で最も良い方法は、公職者に焦点を当てることです。だからこそ私たちは、一連のパナマ文書報道で、政治家やその家族、関係者に重点を置きました。
ジャーナリストの仕事は記事を出すことです。私たちはおそらく今後も2カ月ほどはパナマ文書の取材・報道を続けるでしょう。
社会には役割分担があります。私たちの役割は、暴露すべきものを、単純に暴露することです。そして私たちは一歩下がり、その次の段階には関与せず、介入しないようにする必要があります。これから前面に出て、問題にどう対応するかを決める責任は、政府当局や一般の人々にあるのです。
ICIJは、十分に彼らの分担責任を果たしたと思う。
さて、問題はその後だ。
政府当局は、果たして彼らの役割分担をしっかり務めるかどうか、疑問がある。
だからこそ、納税者(一般の人々)は、ICIJからのバトンをしっかり受け取らなければならないと思う。
「パナマ文書」を機に、税負担の不公平に、怒りをぶつけよう。
そして、今夏の参院選が歴史的な選挙になるよう、一人一人が行動することこそ、分担した責任を果たすことだと思う。