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新聞の「社説」は、本来はそのメディアの主張や見解を代表するものなのだろうから、「TPP」について各紙がどんな社説を掲載しているのか、ニュースサイトから拾って、ざっと並べてみたい。

 朝日、毎日、読売、そして日経は「TPP」問題を扱った日の社説で、その主張が明確になっていると想定する内容の部分的な抜粋。正直なところ全文を掲載する気にはならない。どれも「交渉参加賛成」であり、記事の大部分は野田首相のリーダーシップ不足への批判や、反対意見に対する反論など、「参加賛成」を修飾する内容がほとんどなのだ。全文はリンク先の記事をご参照のほどを。そのうちリンク切れになる時期の内容もあるかもしれませんが、ご容赦の程を。

 まず、朝日から。11月8日の社説。朝日新聞 11月8日の社説

 TPP交渉では国益と国益がぶつかり合っている。「例外なき関税撤廃」の原則も、実情は異なる。米国は豪州とのFTAで砂糖を対象から除いており、この特例をTPPでも維持しようとしているのが一例だ。日本も、激変緩和のための例外措置を確保できる余地はある。

 もちろん、難交渉になるのは間違いない。しかし、参加しない限り、新たなルールに日本の主張を反映できない。TPPに主体的にかかわることが、日本を前へ進める道だ。


 「例外措置を確保できる余地」がなかった場合、朝日は責任をとれるのか?
 そもそも、今から参加可能な数少ない会合のなかで、「日本の主張」が通る“勝算”があると思っているようだが、そういった「TPP」の全体像を見据えた視点に欠けている。

 次は毎日。今日の社説である。毎日新聞 11月11日の社説

 自由貿易圏づくりへの参画は日本の経済発展に不可欠だとの考えから、かねて私たちはTPPへの参加を求めてきた。農業問題をはじめ懸念材料は多々あるが、それは今後の交渉の中で払拭(ふっしょく)していくほかないというのが私たちの立場だ。


 「私たち」という表現が社説として珍しいように思うが、まぁ、これは「論説委員たち」のことなのだろう。あるいは、「毎日新聞全社員」という意味か・・・・・・。「懸念材料」を交渉の中で「払拭していくほかない」という論には、「こうやって払拭する」という裏づけがあるようには思えない。何ら武器を持たずに戦場に向かうような怖さを感じる。

 さて、読売。昨日の社説。読売新聞 11月10日の社説

 最も懸念されているのが農業である。「例外なき関税撤廃」を掲げるTPPに参加すれば、大きな打撃が予想されると農業関係者は反発している。医療や金融分野などで規制緩和が進むことに伴う様々な不安も広がっている。

 政府はこうした懸念の払拭に努め、日本の主張が実現するよう各国と交渉すべきだ。

 党内の慎重派に目立つのは「情報が不十分で、参加決断は拙速だ」という主張だった。しかし、交渉に参加しなければ、詳細な内容は分からないではないか。


 「交渉に参加」しなくても、できる範囲で、参加是非の判断材料となる情報を必死に収集し、道筋を示すのが、本来のジャーナリストの仕事ではなかったのか?また、「懸念の払拭」に時間が必要なら、その「払拭」を優先すべき、という考えもありえる。しかし、ともかく「参加」しなくては始まらない、と主張する。全体に“乱暴”な筆致という印象を受けた。
 
 先日紹介したブログ風のニュースサイト“Gigazine”が丁寧に調べた「国家戦略室」のサイトの情報などを、これらのメディアの論説委員は読んでいるように思えない。もし確認した上でのこういった論調なら、最初から結論が出ていた、ということだろう。
 「参加する場合の懸念事項」や「今から参加する場合の戦略・方向性」などについて、メディアとして何らかの指針を出すこともせず、「参加しなけりゃ分からない。だから参加する」という主張には、「戦争は負けるかもしれない。でもやってみなけりゃ分からない」という無責任な発言に近い印象を受ける。

 次に日経。この新聞は結構早い時期から、態度は明白だった。10月12日の社説から。日本経済新聞 10月12日の社説

 環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加をめぐり、民主党内の調整が大詰めを迎えた。野田佳彦首相は今こそ指導力を発揮して党内の意見を束ね、交渉参加を表明すべきだ。ここが首相の正念場である。

 通商国家の日本にとり、自由貿易は経済成長を支える基盤である。アジア太平洋地域で新しい通商ルールを築くTPPは、現時点で交渉が進んでいる唯一の枠組みだ。日本の主張を協定に反映させるためにも、一日も早く交渉に加わるべきだ。

 時間はあまりない。交渉を主導する米国は、11月上旬にハワイで開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)で大枠合意を目指している。この大舞台を逃してはならない。自由貿易に向けた日本の意志を、力強く打ち出す機会となる。


 「自由貿易に向けた日本の意志」とは、いったいどんな「意志」なのか。その内容へのコンセンサスが得られていないから、ここまでもめているとも言える。日経は、とにかく「自由」な貿易がお好きらしいが、その結果「不自由」となる産業や、その産業に従事する市民のことへの配慮は、微塵も感じられない。

 いわゆる“全国紙”は揃って、「交渉参加賛成」であるようだ。

 「参加しなければ分からない」というのは、半分当たっていると思う。“Gigazine”が「国家戦略室」サイトにある情報から、はからずも読み取ったことでもあり、参加しなければ分からないことが多そうだ。しかし、「参加しなければ分からない」から「参加する」までには、本来は相当距離があるはずで、「参加する場合」と「参加しない場合」の想定できる長所短所を、今ある情報から鳥瞰するプロセスが必要なはずだ。そして、ユダヤ人になぞるわけではないが、二者択一ではない道だってあるはずなのだ。
 例えば、「TPP」のメンバーではない中国や韓国との関係などについては、いったいどう考えていこうとしているのか。もっと言えば中韓両国と、今回の参加問題について、水面下ででもやりとりしているのだろうか。

 参加国、そして不参加国に関する状況は、Wikipediaによると次のようになっているらしい。「TPP」Wikipedia

シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4か国は協定を締結済み。

当初の4加盟国につづき、アメリカ、オーストラリア、ベトナム、ペルーが参加を表明し、ラウンド(交渉会合)に臨んでいる。次いで、マレーシア、コロンビア、カナダも参加の意向を明らかにした。

その一方で、カナダは酪農などの市場開放が十分でないとの理由で2010年10月にTPPへの参加を断られた。韓国は参加に前向きな姿勢を見せていたが、その後TPPへの参加が自国に不利に働くとみて米国との二国間交渉に切り替え、米韓FTAで合意、妥結に至っている。

中国は関心を示し情報収集などを行っていたが、その後の判断で参加しないことを明らかにした。


 これだけを読んでも、いろんな選択肢があるだろうことが想像できる。日本の産業のために、個別案件、個別国との交渉だって、十分に考える余地がある。しかし、全国紙が揃って「交渉参加賛成」を主張する。あまりにも不思議だ。

 以上の全国紙と際立って違う観点での社説を、北と南から紹介したい。どちらもサイトに掲載されている内容の全文。全文を紹介する意味があると、私が感じたからだ。

 北は北海道新聞の10月29日の社説。北海道新聞 10月29日の社説

TPP交渉 国民の疑問に答えねば(10月29日) 

 環太平洋連携協定(TPP)への交渉参加をめぐる論議が本格化している。

 野田佳彦首相は来月12、13日にハワイで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議での交渉参加表明に前向きなようだ。これに対し、反対・慎重論が拡大し、野党にも広がっている。

 首相は「早急に結論を得る」と述べているものの、国民的な論議が熟しているとはとても思えない。

 APECが迫る中で、目立つのは政府・与党の混乱ぶりである。

 民主党の前原誠司政調会長は「交渉参加後の離脱もあり得る」と発言したが、外務省は国際的信用を失うとして反対だ。交渉の基本的な対処方針が定まっていない証左だろう。

 国論を二分している問題なのに中身はいまだに判然としない。

 政府は先に24分野の交渉状況をまとめた。医療分野で医師会などが懸念する混合診療の解禁などは現状では9カ国の議論の対象外とした。

 しかし日本がTPP交渉に参加すれば、規制緩和を名目に論議のテーブルに載る可能性もあり、見通しがついているわけではあるまい。

 焦点の農業や医療以外でも、食の安全、労働など幅広い分野がTPPの対象になる。生活全般にどんな影響があるのか、はっきりしないのでは国民は判断のしようがない。

 政府からは「根拠のない不安や誤解が多い」との釈明も聞かれる。

 誤解があるとすれば、交渉の分野別の中身を国民に詳しく情報開示しない政府の責任である。

 内閣府はTPP参加で、国内総生産(GDP)は0・54%、金額ベースで2兆7千億円押し上げる効果があるとの試算を公表した。雇用の増加などもっと具体的な内容を知りたい。プラス面だけでなく、マイナス面にもきちんと言及すべきだ。

 参加を念頭に、政府は農業再生の基本方針を決めた。ただ水田などの規模を拡大しても、栽培面積の広い米国や豪州には太刀打ちできないとの声が早くも上がっている。

 肝心のTPPと国内農業の両立への道筋が不透明では、地方や農家は不安を募らせるだけである。

 推進派はTPPでアジア・太平洋地域の活力が取り込めると言う。仮に参加すると、関係国の経済規模は米国と日本が圧倒的に大きく、実質的には日米間の自由貿易協定(FTA)になるとの指摘もある。

 首相は参加に前向きというのであれば、TPPで経済や国民生活がどう改善するか、さらに日本の社会をどう変えようとするのか、国民に丁寧に説明すべきだ。疑問だらけのまま結論を出せば、国民不在の態度表明と言われても仕方あるまい。



 続いて南の代表として、西日本新聞の11月8日の社説。西日本新聞 11月8日の社説


TPP 決断の重みと覚悟を問う

 賛否は真っ二つに割れている。どちらの道を選択するにせよ、激しい反発や痛烈な批判は避けられそうにない。

 だからと言って、いたずらに結論を先送りすることも許されない。まさに政治が、その責任において決断を下すべき重大な局面を迎えたと言えるだろう。

 環太平洋連携協定(TPP)の交渉参加問題が、いよいよ大詰めの段階となってきた。

 民主党は、あすにも党内の意見集約を目指す。これを踏まえて、交渉参加に意欲的な野田佳彦首相は10日に記者会見を開き、正式に態度を表明する運びだという。翌11日には衆参両院の予算委員会でTPPの集中審議が予定されている。

 与党の意見集約を突破口に、政権としての方針を最終的に決め、国会審議も乗り切って、12日からハワイで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議に臨む−。野田政権は、そんな段取りを描いているようだ。
 世論も政党の論議も二分するほど複雑で重要な問題だからこそ、野田首相と民主党政権には、政治決断の重みと覚悟をあらためて問いただしておきたい。

 共同通信の世論調査によると、TPP交渉に「参加した方がよい」は38・7%で、「参加しない方がよい」の36・1%と拮抗(きっこう)した。

 主な理由として、参加を是とする人は「貿易自由化は世界の流れ」「日本企業の輸出機会が増える」などを挙げ、非とする人は「農業が打撃を受け、食料自給に影響する」「海外製品や輸入農畜産物は安全面で不安」などを選択した。
 注目すべきなのは、交渉に参加した場合の影響について「政府が国民に十分説明していると思うか」との設問に対し、「説明していない」とする有権者が計8割近くを占めたことである。

 交渉参加の是非以前の問題として、その判断材料を政府は適宜適切に国民へ提供してきたのか。国民の懸念や不満を政府は率直に受け止める必要がある。

 野田首相は今国会で「世界経済の成長を取り込み、産業空洞化を防ぐには経済連携が欠かせない」と交渉参加に前向きな姿勢をにじませる一方、最終的な判断については「できるだけ早期に結論を出したい」の一点張りだった。
 「国民の理解を深めるため説明に努めたい」とも答弁してきたが、具体的で説得力のある説明は足りない。すべては党内論議の行方を見極めてから−と、かたくなに思い定めているかのようだ。

 政府にとって都合の悪い情報も含めて国民へ公開し、政策決定の透明性を高める−。それが、民主党が掲げる政権交代の大きな眼目の一つだったはずだ。

 徹底的な情報公開を通じて国民的な合意形成へ説明責任を尽くす。また、いったん決めたことはきっちり守り抜くことで政治の結果責任を果たす。野田政権に問われているのは、国民への約束であり、政権担当能力そのものである。
=2011/11/08付 西日本新聞朝刊=



 北海道新聞も西日本新聞も、交渉参加の是非の前に、政府の「アカウンタビリティ」をテーマとしている。日本語で「説明責任」と訳されているのには若干違和感があるが、政府(&官僚)が、説明責任を果たしていない、ということを問題としているわけで、まったくその通りだと思う。
 「北と南には農業従事者が多いから」という指摘もあるだろうが、両紙は「交渉参加反対」を唱えているわけではない。あくまで、日本の幅広い産業への影響が想定できる大きな問題について、「もっと説明が必要だ」「もっと情報が必要だ」「もっと議論すべきだ」と指摘しているのだ。実は、地方紙の主張の大半は、北海道新聞と西日本新聞の論調に近い。しかし、全国紙は揃って「参加賛成」・・・・・・。

 全国紙は、中央官庁の目が光っている、ということに思いが至る。政府よりも官僚による統制を察することができる。カレル・ヴァン・ウォルフレンは『人間を幸福にしない日本というシステム』の中で、日本では国の重要問題においてどんな選択をするかについて、官僚に「説明責任」を果たさせる仕組みがない、と問題を指摘している。これは、原発問題にしても他の課題にしても踏襲してきた“官僚独裁主義”につながる問題である。

 本来、複数のメディアがあることによって、さまざまな視点や見解、個人では入手困難な情報を知ることで、自分自身の意見や立ち位置を定める参考になる、いわば自分自身の思考を助けてくれることに役立つはずなのだ。もちろん、玉石入り混じった内容であっても、その中から自分自身で選び考えることができる。しかし、今回の全国紙の論調には、その瑣末な言葉使いの相違はあっても、肝腎な主張については基本的な差がない。果たして、こんな新聞が複数必要なのか、という疑問にまで至ってしまった。マスメディアとパーソナルメディアの間にあるweb上のミディアムメディアのほうが、どれだけ役に立つか、ということをあらためて認識した次第である。ネットの世界では、野田首相は財務省の勝栄二郎事務次官の“ロボット”である、という指摘に溢れている。しかし、全国紙は、そんなことは一切書かない、いや、書けない。

 全国紙が、野田首相のリーダーシップ不足を追求すればするほど、その背後に財務省、そして勝事務次官の存在を感じないわけにはいかない。未だに“官僚独裁主義”によるメディア操作、あるいはメディアへの圧力があるのなら、それは市民にとって憂うべき状況なのだろう。真っ当なジャーナリズム、メディアを持たない国民は幸せとは言えないはずだ。若いweb世代のジャーナリストにより、この状況が改善されることを願うばかりである。
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日本のTPP交渉参加について、必ずしもアメリカの大統領と議会のコンセンサスが取れているわけではない、という記事を、まず紹介。ロイターの該当記事

「日本とのTPP交渉判断慎重に」、米超党派議員がオバマ政権に要請
2011年 11月 9日 14:28 JST

[ホノルル 8日 ロイター] 米下院歳入委員会と上院財政委員会の幹部を務める超党派議員4人は8日、オバマ政権に対し、日本が今週環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に参加する意向を表明した場合、議会との事前協議なく早急に決断することがないよう要請した。
 議員グループが米通商代表部(USTR)のロン・カーク代表に宛てて書簡を送った。

 それによると、議員らは「日本が交渉に参加すればTPP交渉に新たな次元と複雑性が加わることになる。このため(米政府に対し)いかなる決断も下す前に連邦議会その他の関係者に相談するよう強く求める」と要請した。

 その理由として、同書簡は「日本は長い間、国内市場を意味のある競争から保護してきた」と指摘し、米国は日本政府が本気で市場を開放し、米自由貿易協定(FTA)が求める高い水準を満たす用意があるのかを十分確認する必要があるとしている。

 ハワイ州ホノルルには、今週末に開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を控え、各国の高官が集結しつつある。12日には、このうちTPP交渉に参加する米国、オーストラリア、ニュージーランド、チリ、ペルー、シンガポール、マレーシア、ベトナム、ブルネイの9カ国の首脳による個別の会合も予定されている。



 TPPについて自分なりに考えていたのだが、最近著作をまとめて読み始めた内田樹は、ブログ「内田樹の研究室」で次のようなことを書いている。「グローバリストを信じるな」と題された10月25日の内容からの引用。
「内田樹の研究室」の該当ページ

TPPについて私が申し上げたいことはわりと簡単である。
「生産性の低い産業セクターは淘汰されて当然」とか「選択と集中」とか「国際競争力のある分野が牽引し」とか「結果的に雇用が創出され」とか「内向きだからダメなんだ」とか言っている人間は信用しない方がいい、ということである。
そういうことを言うやつらが、日本経済が崩壊するときにはまっさきに逃げ出すからである。
彼らは自分のことを「国際競争に勝ち抜ける」「生産性の高い人間」だと思っているので、「いいから、オレに金と権力と情報を集めろ。オレが勝ち残って、お前らの雇用を何とかしてやるから」と言っているわけである。
だが用心した方がいい。こういう手合いは成功しても、手にした財貨を誰にも分配しないし、失敗したら、後始末を全部「日本列島から出られない人々」に押しつけて、さっさと外国に逃げ出すに決まっているからである
「だから『内向きはダメだ』って前から言ってただろ。オレなんかワイキキとバリに別荘あるし、ハノイとジャカルタに工場もってっから、こういうときに強いわけよ。バカだよ、お前ら。日本列島なんかにしがみつきやがってよ」。
そういうことをいずれ言いそうなやつ(見ればわかると思うけどね)は信用しない方が良いです。



 「それで、結局内田は、賛成なのか、反対なのか?」という疑問を持つ方へのサービス(?)として、この部分の直前にある文章も少し紹介しましょう。

日本列島からアメリカの弁護士がいなくなっても、アメリカ的医療システムが使えなくなっても、誰も困らない。
でも、TPPで日本の農業が壊滅したあとに、アメリカ産の米や小麦や遺伝子組み換え作物の輸入が止まったら、日本人はいきなり飢える。
国際価格が上がったら、どれほど法外な値でも、それを買うしかない。そして、もし日本が債務不履行に陥ったりした場合には、もう「買う金」もなくなる。
NAFTA(North America Free Trade Agreement)締結後、メキシコにアメリカ産の「安いトウモロコシ」が流入して、メキシコのトウモロコシ農家は壊滅した。そのあと、バイオマス燃料の原材料となってトウモロコシの国際価格が高騰したため、メキシコ人は主食を買えなくなってしまった。
基幹的な食料を「外国から買って済ませる」というのはリスクの高い選択である。
アメリカの農産物が自由貿易で入ってくれば、日本の農業は壊滅する。
「生産性を上げる努力をしてこなかったんだから、当然の報いだ」とうそぶくエコノミストは、もし気象変動でカリフォルニア米が凶作になって、金を出しても食料が輸入できないという状況になったときにはどうするつもりなのであろう。同じロジックで「そういうリスクをヘッジする努力をしてこなかったのだから、当然の報いだ」と言うつもりであろうか。
きっと、そう言うだろう。そう言わなければ、話の筋目が通らない。
でも、こういうことを言う人間はだいたい日本が食料危機になったときには、さっさとカナダとかオーストラリアとかに逃げ出して、ピザやパスタなんかたっぷり食ってるのである。


 なんとも歯切れのいい(?)内田節だこと。

 しかし、TPPそのものについて、もっと知る必要があるなぁ、とネットでいろいろ探していると、Gigazineというブログ形式のニュースサイトで、下記のタイトルで結構有益と思われる内容が掲載されていた。
「TPP」とは一体何か?国家戦略室の資料を読めば問題点がわかる
「Gigazine」の該当ページ

年月日順で並べると以下のような順です。

2006年:シンガポール・ニュージーランド・チリ・ブルネイの4カ国による環太平洋戦略的経済連携協定、通称「P4協定」発効

2010年3月:さらにアメリカ・オーストラリア・ペルー・ベトナムの4カ国を加えた全8カ国で「環太平洋パートナーシップ(Trans‐Pacific Partnership)協定」の交渉開始(これが「TPP」のこと)

2010年10月4日~9日:TPP第3回会合からマレーシアも新規参加、全9カ国に。

つまり、「P4協定」が拡大して「TPP協定交渉」になった、ということです。

日本はこのTPP協定交渉に参加したわけではないので、様々な外交ルートや種々の協議の場を通じて情報収集を行っているのが現状であり、10月末時点で以下のようなことがぼんやりと分かっているに過ぎません。


この後に、「国家戦略室」のサイト掲載の資料を読んだ結果として、次のように列記している。

重要なのは以下の3点。

・新しくTPP協定交渉に参加するには全9カ国の同意が必要
「新規交渉参加について、正式な手続き規定がある訳ではないが、情報収集によれば、参加には、現在交渉に参加している9カ国の同意が必要」とのこと。ところが実際には以下の文を読めば分かりますが、ある一カ国が「うん」と言うかどうかにかかっています。

・新しくTPP協定交渉に参加するには早期の意思表示が必要
「新規交渉参加についての公式の期限はないが、TPP原加盟国として参加するためには、各国の国内手続きにかかる時間を考慮し、早期の意思表示が必要」となっていますが、実際には「米国は、行政府が、米議会との緊密な意思疎通の一環として、2007年に失効した「貿易促進権限」(TPA)法上の手続を失効した後も実態上踏襲し、通商交渉を開始する少なくとも90日前までに、議会に通知していると承知している」とあり、アメリカが「うん」と言うかどうかが最大のポイントになっています。「うん」と言うまで90日間もかかるので、もし今すぐTPP協定交渉参加を決定しても、3ヶ月後の2012年2月からしか交渉のテーブルには付けないわけです。

・発効手続規定の内容は不明
「TPP協定は現在交渉中であり、現時点では発効手続規定の内容は不明。(通常、手続要件を議論するのは交渉の最終段階であり、交渉国間でもまだ決まっていないものと考えられる。)」としており、この一文からも「実は何がどうなっているのかよく分からない」というのが政府の実情であり、強い諜報機関や情報機関を持っていないというデメリットが露骨に出ています。

さらに「早く参加しないと間に合わないよ」という空気をアメリカは加速させており、有象無象の圧力を日本政府にかけていますが、そもそもTPP協定交渉に参加を表明しても、「交渉が一切できない」可能性も出ています。


 最後の内容は、冒頭のロイターの記事とのつながりもあって、「なるほど」と思う。

 要するに、参加してもどうなるかは政府が「よく分かっていない」というのが実態のようだ。だから、国民に明確に参加のメリットとデメリットを説明できるはずもなければ、参加賛成、反対両派に対して及び腰になるのも自明。新聞も「賛成、反対に二分」とか書いているけど、TPPそのものに関しては、Gigazineほどの解説もなければ、内田樹のような、(賛成、反対いずれにしても)明解な見解はない。しかし、どちらかと言うと「賛成」に誘導している。なぜなら、数多くの広告主が加盟する団体の親方、経団連会長が次のように言っている。ASAHI.COMの該当記事

TPPの重要性強調 経団連会長
2011年11月09日

◆北経連と懇談◆

 経団連の米倉弘昌会長(住友化学会長)=写真左=は8日、金沢市内のホテルで北陸経済連合会との懇談会に出席した。環太平洋経済連携協定(TPP)への参加のメリットを訴え、「今週末のハワイでのAPEC(アジア太平洋経済協力会議)でぜひ交渉参加を表明して欲しい」と野田佳彦首相への期待感を示した。

 米倉会長は「事業拠点としての日本の魅力を高めるため、アジアの成長を持続させるためにも、より開かれたビジネス環境を早期に構築することが必要だ」とTPPの重要性を強調。

 関税撤廃に危機感を持つ農家から反対が強いことについては、会合後の会見で「TPPを取るか農業を取るかの二者択一でなく、両方ともやらないといけない。日本の農業の技術は高く、安全で高品質。どんどん輸出していける産業で、農業を強化できるチャンスはいくらでもある。経団連としてもお手伝いしたい」との考えを示した。

 TPPは関税だけでなく医療や金融など様々な分野の規制を緩和し、人材や商品、サービスの往来を活発化させるのが目的。米国や豪州など9カ国が妥結に向けて交渉を進めている。
(生田大介)


 原発問題でも、加盟企業の代弁者として未だに原発を擁護している老人だが、TPPに関するこの発言は、まさに、内田樹が指摘する、「信用してはいけない」人の論ということになる。


 「よくわからないけど、バスに乗り遅れないよう参加しよう」というノリでシロクロつけられては困る。そのバスの行き先も分からず、現時点で何を考えているか分からない同乗者たちとは楽しい旅を続けられると思えない。運転手が信号無視して暴走することだってありえる。

 冒頭に紹介した記事のように、日本の参加についてアメリカだって、大統領と議会は一枚岩じゃない。ならば、ここはじっくり腰を据えて、日本人には不得手ながら、本当の「論議」とやらをしてみてはどうだろうか。震災、原発、そしてタイの洪水に加えて、将来振り返ることを逡巡するもう一つ大きなニュースをこの年に増やして欲しいとは思わない。バスは出発しても、それが最終バスではないだろうし、明日もバスは停留所にやって来るはずだ。

 いや、停留所を出て遠くに去って見えなくなろうとしているバスを、必死に追いかけていると言ったほうがよいのかもしれない。Gigazineには、次のように書かれている。

既に交渉日程は第9回までが終わっており、2012年にあと最低5回がある程度。9回+5回で14回なので、既に半分以上どころか3分の2程度は決まっており、さらに日本が次の11月12日(土)~13日(日)のAPEC首脳会議で「TPP協定交渉に参加したいよ!」と表明したとしても、既に書いたようにアメリカが「うん」と言うまで6ヶ月かかるわけなので、日本が交渉の場に現れる頃にはもう9割方は交渉終了済み、あるいはもう終わっていると考えた方がいいのではないか?ということです。

改めて交渉すべき分野を並べてみると、今まで何の準備もしていない日本が今すぐ参加できたとしても、これだけの分野すべてで日本の有利になるように交渉できる可能性はあるのでしょうか?


 参加しようとする「交渉」そのものに、まったく主体性を発揮できず、ただアメリカに利用されるためにノコノコ出かけて行こうとしているのかもしれない。

 勝負に喩えるなら、“アウェー”の戦いに何ら敵の研究もせず、戦力の補強もないまま、加えてチームとしての戦術会議も平行線を辿って収束しない状況で臨むようなものだ。勝てる確率はゼロに近いだろう。
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