「ほっ」と。キャンペーン

<   2014年 07月 ( 13 )   > この月の画像一覧

昨日は、関西電力の元副社長だった内藤千百里(ちもり)さん(91歳)の憂国の内部告発のことを紹介したが、元自衛権で、がんにより余命一年を宣告された泥憲和(どろのりかず)さん(60歳)の行動も実に貴重だと思い、東京新聞から紹介する。
東京新聞の該当記事

集団的自衛権は他人のけんか買うこと 元自衛官、平和を説く
2014年7月28日 07時17分

 「集団的自衛権は他人のけんかを買うこと。逆恨みされますよ」。神戸市の街頭での泥憲和(どろのりかず)さん(60)=兵庫県姫路市=の「叫び」が、インターネット上で広がっている。四月にがんで余命一年と宣告された元自衛官。集団的自衛権の行使容認が閣議決定される前日の六月三十日、マイクを握った。 (加藤裕治、写真も)

 初対面の若者たちに交じり、解釈改憲反対のビラ配りを手伝っていた。聞こえてくる演説を「分かりにくい」ともどかしく感じた。話が途切れた時、たまらず「ちょっとしゃべらせて」と、頼み込んだ。

 「私は元自衛官で、防空ミサイル部隊に所属していました」「自衛隊の仕事は日本を守ること。見も知らぬ国に行って殺し殺されるのが仕事なわけない」

 五分余りで話し終わると、自民党支持者を名乗る中年男性が「あんたの話はよう分かった。説得力あるわ」と寄ってきた。

 フェイスブックに全文を載せると、瞬く間に賛同する人たちが転載を繰り返し、ネット上に広がった。離れて暮らす長男から「おやじ、ほめられすぎ」と冷やかされた。

 泥さんが自衛隊に入ったのは一九六九年。六年間働き、故郷の姫路市に戻って皮革加工の仕事を始めた。被差別部落出身の仕事仲間と付き合いを深める中で、両親や親類と縁遠くなった。

 差別感情が強く残っている現実に直面し、被差別部落の解放運動に関わり始めた。その延長で、平和運動にも携わる。自衛隊を違憲と考える仲間たちに、合憲という自分の意見を納得してもらうため、勉強を続けてきた。自衛隊は「専守防衛」。「自衛官時代に、国民を守り憲法に従うという役割を教わった」。神戸での街頭演説は、これまでの活動の到達点でもある。

 二〇〇九年十二月、京都朝鮮初級学校に対する街宣活動が起きた。「日本からたたき出せ」「スパイの子ども」。ネットで知った泥さんは、ヘイトスピーチと呼ばれる差別的な発言をするデモに憤り、現場で反対の声を上げる「カウンター」活動も始めた。

 憎悪がむき出しとなる社会と歩調を合わせるように、政府は戦争放棄の憲法を解釈でねじ曲げようとする。がんの宣告を受けたのを機に仕事を辞め、講演会など表舞台にも立つようになった。

 「ヘイトスピーチをする人を蹴散らすことはできるかもしれない」。中心人物を孤立させ、社会的に包囲することが自分の役割と感じている。「その間に多くの人が良識を発揮してほしい。日本国民のピースマインドは、ばかにできませんよ」

(東京新聞)


 泥さんの言葉、“自衛隊の仕事は日本を守ること。見も知らぬ国に行って殺し殺されるのが仕事なわけない”、という言葉が、SNSで拡散されているようだ。
 ほぼ同年代の彼の憂国の行動を、生かさないではいられない。

 オバマは中間選挙までは、国内の保守派対策のためにも強面の姿勢を崩すわけにはいかない。
 そういった状況も十分に踏まえて、安倍がよく口にする“主権国家”である日本は、第9条を誇る国としての姿勢を示し、イスラエルとガザ、ウクライナとロシアなどの問題に、“積極的”に“平和”のための貢献をすべきではないか。

 安倍政権は、いったいこの国をどうしようとしているのか。きっと、そんな憂国の念などは皆無だろう。

 あくまでアメリカに取り込もうとするだけの“幇間”役としか見えない。オバマに「よいしょ!」して、いったいどんなご祝儀を期待しているのか。アメリカが日本という芸人の旦那であった時代は過去のことである。

 そんなことを思うと、土用の丑の日でもあり、落語『鰻の幇間』を思い出す。一八が日本、一八を騙してお土産や新品の桐の下駄まで失敬して逃げる男は、アメリカに思えてならない。
 一八が「大将、あぁた、御馳走するって言ったでしょ!?」と言うが、男は「俺は、鰻でも食おうか、って言っただけで、御馳走するなんてこたぁ、一言も言っちゃいねえよ」と答える。あっちのほうが、一枚も二枚も駆け引きは上なのである。

 泥さんのような経験に裏打ちされた言葉や行動しか、狡猾な相手の嘘を見破ることはできないだろう。そして、そういう人が生命を賭けた行動を、私たちはしっかり受け止めなくてはならないと思う。
[PR]
関電による長年の政界工作の暴露は、“元役員”という匿名から、堂々と名を明かした“憂国”の内部告発となった。

 朝日新聞のスクープを引用する。記事には動画もある。
朝日新聞の該当記事

関電、歴代首相7人に年2千万円献金 元副社長が証言
藤森かもめ、村山治
2014年7月28日03時41分

 関西電力で政界工作を長年担った内藤千百里(ちもり)・元副社長(91)が朝日新聞の取材に応じ、少なくとも1972年から18年間、在任中の歴代首相7人に「盆暮れに1千万円ずつ献金してきた」と証言した。政界全体に配った資金は年間数億円に上ったという。原発政策の推進や電力会社の発展が目的で、「原資はすべて電気料金だった」と語った。多額の電力マネーを政権中枢に流し込んできた歴史を当事者が実名で明らかにした。

 内藤氏が献金したと証言した7人は、田中角栄、三木武夫、福田赳夫、大平正芳、鈴木善幸、中曽根康弘、竹下登の各元首相(中曽根氏以外は故人)。

 内藤氏は47年に京大経済学部を卒業し、関電前身の関西配電に入社。62年に芦原(あしはら)義重社長(故人)の秘書になり、政財界とのパイプ役を約30年間務めた。関電の原発依存度は震災前は5割を超え業界でも高く、原発導入を円滑に進めるには政界工作が重要だったという。

 内藤氏は2013年12月から今年7月にかけて69時間取材に応じ、11年3月の東京電力福島第一原発の事故について「政府の対応はけしからん」「長年築いてきた政・官・電力の関係に問題があった」と指摘した上、多額の政治献金を電気料金で賄ってきた関電の歴史を詳細に語った。


 ここから先は、無料の読者登録で読める内容に続く。

 さらに「関電には芦原さんが直接、総理大臣や党の実力者に配る資金があった。トップシークレットだった」と証言。首相や自民党有力者らに毎年2回、盆暮れのあいさつと称して各200万~1千万円の現金を運ぶ慣行があったと明かし、授受の様子や政治家の反応を細かく語った。

 当時は政治家個人への企業献金は法律で禁止されていないが、電力各社は74年、「政治献金分まで電気料金を支払いたくない」という世論を受けて企業献金の廃止を宣言。内藤氏は当時の業界は「そんなことを出来るわけがない。政治家を敵に回したら何も動かない」という雰囲気だったとし、その後も政治献金を水面下で続けたと証言した。

 献金の理由は「一に電力の安泰。二に国家の繁栄」とし、「天下国家のために渡すカネで、具体的な目的があったわけではない。許認可権を握られている電力会社にとって権力に対する一つの立ち居振る舞いだった。漢方薬のように時間をかけて効果が出ることを期待していた」と強調した。

 関電広報室は「承知していない」と取材に答えた。(藤森かもめ、村山治)

■元首相側は否定

 内藤氏が献金したと証言した7人の元首相側は取材に対し、「そのような事実はないと思う」「わからない」などと答えた。

 政治資金規正法は金権スキャンダルのたびに改正を重ねた。ロッキード事件後の1980年に政治家個人が受けた献金の収支報告が義務化され、リクルート事件や東京佐川急便事件を受けて99年に政治家個人への企業・団体献金が禁止された。99年までは政治資金収支報告書に記載していれば問題ないが、記載の有無は取材で確認できなかった。

     ◇

■痛烈な自己批判、過去に例ない

 《歴史の関係者から話を聞き取る「オーラルヒストリー」第一人者の御厨貴東大客員教授の話》 電力を独占供給する巨大公益企業の政界工作を中枢の元役員が明かした衝撃の告白だ。これほど痛烈な自己批判は過去にない。歴史をこの国に記録として残そうとする勇気ある行為だ。

 関電は電気料金を使って政治家を値踏みし、政界のタニマチ的存在になっていた。巨額献金が独占支配を強め、自由化を嫌がる自己改革のできない組織にさせたに違いない。内藤氏は電力業界に誤りはないと信じてきたが、原発事故で過信だったと気づいた。関電にとって目指すべきモデルで超えるべき対象だった東電の事故は、裏方仕事が国家のために役立つと信じてきた彼の価値観を画期的に変えたのだろう。

 電力を各地域の独占企業が担い続けていいのか。この告白は業界への戒めであり、世論への問いかけだ。


 記事の途中から、この貴重な証言の別な内容にもリンクされているので、そちらも一部ご紹介。
 あの今太閤や、他の政府高官が、どのように献金を受け取ったのか、について。
朝日新聞の該当記事

《関西電力社長・会長を歴任した芦原義重の政治担当秘書を務めた内藤千百里は、田中角栄秘書だった佐藤昭子と長い友人だ。田中の首相在任中の1972~74年に政治献金を持参した場面から、内藤の告白は始まる》

 芦原さんが角さんの事務所で1千万円を渡すと、角さんは「おーい。頂いたよ」と昭さんに伝える。昭さんは「そうですかー」と受け取りに来る。1千万円は紙袋や風呂敷で持っていく。大した重さではなかったね。私が昭さんに電話で「行きますよー」と言えば、「いらっしゃーい」と面会を入れてくれた。

 芦原さんが直接、総理や党の実力者に渡す資金がありますねん。会社のトップクラスのみ知っている。総理には盆暮れに各1千万円ずつ計2千万円。総理を辞めた後にも同額を渡した人はいた。辞めたからといって800万円に下げるわけにはいかんでしょ。


 関電と政権との関係は、電力会社全体と時の政権自民党との蜜月関係を示す証左である。原発は国策として推進され続け、3.11を迎えた。あれから3年余りが過ぎても、国は相変わらず地震大国日本にとって十分な対策を取りようがない、人間の英知を超えた巨大で危険なシステムを動かそうとしている。

 こんな馬鹿なことを繰り返してはならない。内藤さんには、そういう思いがあったのだろう。

 私は、この内藤元副社長の勇気、憂国の念を、大事にしなくてはならないと思う。

 きっと、何も語らないままでは死んでも死にきれない、という強い思いが、歴史的な内部告発の背景にあるはずだ。

 “天下国家”のため、と信じていた献金が、まったく意図したような大義には使われず、私利私欲のために使われたこと、3.11以降も、被災者の方への支援は不十分であり、原発事故の原因究明も十分に行われず、懲りずに原子力ムラが原発再稼動を進めようとする姿に、このままではいけない、という思いが、墓場まで持ち込むはずの企業秘密を語らせることにつながったのではなかろうか。私はそう思う。

「政府の対応はけしからん」「長年築いてきた政・官・電力の関係に問題があった」と指摘した上、多額の政治献金を電気料金で賄ってきた関電の歴史を詳細に語った、その内藤さんの思いを生かさなければならないと思う。
[PR]
ファストフードで危険な食べ物は肉だけではない、というお話。

e0337865_16403203.jpg

エリック・シュローサー著『ファストフードが世界を食いつくす』(草思社文庫)

 エリック・シュローサーの『ファストフードが世界を食べつくす』の「第5章 フライドポテトはなぜうまい」から引用する。
 

 数十年間というもの、マクドナルドはほぼ大豆油7に対して牛脂93の割合の混合油でフライドポテトを揚げていた。この混合こそ、マクドナルドならではの風味を帯びたフライドポテトの秘密だった‐キロ当たりの飽和牛脂肪の量がハンバーガーを上回るフライドポテトの秘密でもある。
 フライドポテトのコレステロール値の高さに対する非難の大合唱が始まり、マクドナルドは1990年、揚げ油を純正植物油に切り替えた。切り替えにあたって、ある大問題と向き合う。ほのかにビーフ風味を帯びたフライドポテトを、牛脂を使わずにどうやって作ればいいのか?マクドナルドが現在フライドポテトの調理に使っている原材料のリストを見ると、問題がどう解決されたか、答えのヒントが見つかる。リストの末尾に、一見なんの害もなさそうな、だが妙に意味深長な、ある名称が見られる‐“天然香料”。


 食品添加物と並んで、食の安全を脅かす存在が、香料であることは、あまり知られていない。しかし、ファストフード店の飲料なども含め、香料は欠かせない秘密の素材となっている。
 「天然なら安全では?」・・・とんでもない!

 天然香料が人工香料に比べて純正だとは、必ずしも言い切れない。アーモンド香料(ベンズアルデヒド)は、桃やあんずの種子などの天然原料から抽出した場合、微量のシアン化水素が含まれる。これは猛毒だ。ベンズアルデヒドを別の過程で‐丁子油にバナナ香料の酢酸アルミを混合して‐作ると、シアン化水素とは無縁なものができる。それでも、これは法的に人工香料に分類され、天然に比べて大幅に低い価格で売られる。天然にしろ人工にしろ、香料は今日では同じ化学工場で生産されている。この工場を見て“母なる自然”を連想する人は、まずいないだろう。こうした香料を“天然”と呼ぶには、言葉を柔軟にとらえたうえに、相当の皮肉を込めなくてはならない。



 本書では、この後、香料メーカーで“調香師”(フレーバリスト)と呼ばれるごく少数の専門家がどのように香料を作っているか、香料の成分がいかに秘密に包まれているかなどに迫る。

 “天然香料”という言葉は、私に“脱法ハーブ”という言葉を連想させる。

 天然などという言葉に騙されてはいけない。何ら疑うことなくファストフードのフライドポテトを子供に食べさせている母親が多いことを、私は大いに危惧する。
[PR]
今日の昼は野暮用があったので外で昼食をとった。会社近くにある地下鉄駅近くのショッピングセンターのレストランフロアーに行った。そこにはマクドナルドがあるのだが、あのニュースの後なのに、小さな子供を連れて若い母親が並んでいるのを横目で見ながら、私はもちろん別な店に行ったのだった。

 それにしても、なぜ、あの若い母親はあの店に並ぶのか。

 中国の食品会社が期限切れの鶏肉を現地のマクドナルドに販売していた問題は、予想通り日本企業にも波及した。
東京新聞の該当記事

中国企業の期限切れ鶏肉 マック・ファミマ使用か 一部販売休止
2014年7月23日 朝刊

 中国・上海の食品会社で使用期限切れの鶏肉を供給していると報じられた問題で二十二日、日本マクドナルドとファミリーマートでは、この会社から鶏肉を仕入れていることが判明したとして一部メニューの販売を中止した。 

 日本マクドナルドは二十二日、国内で使用する「チキンマックナゲット」の約二割をこの会社から輸入していたと発表。問題の鶏肉を使っていた店舗は東京、神奈川、千葉、埼玉、茨城、栃木、群馬、長野、静岡など一都十県の約千三百四十店。このうち約五百店舗で、チキンマックナゲットの販売を二十一日から二十二日にかけて一時中止した。マクドナルドは調達先をタイや中国の他の企業に切り替えて、二十三日には販売を全面再開する。

 また、コンビニ大手のファミリーマートは二十二日、鶏肉の加工食品二商品の販売を中止した。二商品は全国約一万店で取り扱っている「ガーリックナゲット」と、東京・多摩地区と長野、山梨両県の計十店舗で今月二十一日に実験販売を開始した「ポップコーンチキン」。

 両社の製品とも中国・上海の食品企業「上海福喜食品」で加工されたもので、使用期限切れの鶏肉を使っている可能性がある。

 一方、日本ケンタッキー・フライド・チキン、流通大手のイオン、セブン&アイ・ホールディングス、コンビニ大手のローソンでは問題の鶏肉は使っていないという。



現地で拘束された者がいて、日本政府は一時輸入差し止めをするという共同通信の記事。
'47NEWSの該当記事

上海・期限切れ鶏肉、5人拘束 日本政府、一時輸入差し止め

【上海共同】23日の新華社電によると、上海の食品会社「上海福喜食品」が米ファストフード大手マクドナルドなどに使用期限切れの鶏肉を販売していた問題で、上海の公安当局は同日までに関係者5人を刑事拘束した。組織的な違法生産行為があったと認定したとみられる。

 上海食品監督当局は同日までに「チキンマックナゲット」や豚肉のハンバーグなどの加工品に問題があったと認定、関連商品約100トンを押収した。新華社が報じた。菅義偉官房長官は23日の記者会見で「製造された食品については(検疫所が)一時的に輸入を差し止める措置を行っている」と述べ、健康被害の報告はないと説明した。
2014/07/23 14:17 【共同通信】



 鶏肉に限らないようだ、という東京新聞の続報もご紹介。(太字は管理人)
東京新聞の該当記事

期限切れ肉 鶏以外もずさん管理 上海の会社責任者聴取 組織的に不正か
2014年7月23日 14時00分

 【上海=加藤直人】米国の大手食品加工会社「OSIグループ」の傘下にある中国上海市の食肉加工会社「上海福喜食品」が使用期限切れの肉類を加工して供給していた問題で、上海市は「組織的な不正」との見方を強め、食品会社の責任者ら五人を隔離して事情聴取している。上海紙・東方早報などが報じた。福喜食品をめぐっては当初、チキンナゲットなど鶏肉の期限切れが指摘されたが、上海テレビは牛肉についてもずさんな管理の実態を伝えており、問題の対象が鶏肉以外に広がる可能性がある

 上海福喜食品には、鶏肉と牛・豚肉の生産ラインがあり、工場に潜入取材して最初に報じた上海テレビは、問題の工程として牛肉の加工も取り上げていた。

 OSIは問題発覚後、「工員の個人的な行為」との見解を示していたが、上海市は、工場ぐるみで意図的に不正をしていたとの見方を強めている。上海市食品薬品監督局と市公安当局は合同指揮部を設けて調査を進めており、責任者の刑事責任が追及される可能性も出てきた。

 合同指揮部は、上海福喜食品から今年一月以降の原料仕入れ、生産加工、品質管理、売り上げなどの記録を提出させた。

 さらに、福喜食品の上海工場倉庫に保管してあった肉類の原料百三トン、「チキンマックナゲット」などの製品五千百八箱を押収した。

 合同指揮部は、福喜食品の製品が中国国内ではマクドナルドやピザハットなど計九社に納入されていたとみて、流通経路を詳しく調べている。

◆従業員「死にはしない」TVの潜入取材で発覚

 【上海=加藤直人】中国上海市の「上海福喜食品」が使用期限切れの肉類を加工して供給していた問題は二十日夜、上海テレビによる工場への潜入取材が放映され、その直後に上海市が立ち入り調査に入ったことで表面化した。

 上海テレビは工場内で白い帽子をかぶって作業する従業員らの様子を放映し、「使用期限切れではないの」と問いかける従業員に対し、別の従業員が「死にはしないよ」と応じる生々しい映像も放映された。

 機械から工場の床に落ちた原料の肉を、従業員がそのまますくいあげて生産ラインに戻す映像なども放映され、同社のずさんな食品の衛生管理の実態も浮き彫りになった。

 その後、上海紙が一斉に問題を報じたことで、上海市民にも大きな衝撃を与えている。上海の目抜き通りである南京西路のマクドナルドが入る百貨店に勤める女性は二十三日朝、「中国は食の安全の問題が多すぎる。外資だと思って安心してマクドナルドの商品を食べていましたが、中国製の原料に問題があったなんてショックです」と話していた。

◆食肉加工品輸入 1年で6千トン

 中国上海市の食肉加工会社「上海福喜食品」が使用期限切れの肉類を供給していた問題で、厚生労働省は二十三日、七月までの一年間に同社から約六千トンの食肉加工品が輸入されていたと明らかにした
(東京新聞)



 ウォールストリートジャーナルからも引用。ウォールストリートジャーナルの該当記事

上海福喜の期限切れ肉への懸念、日本にも拡大
2014 年 7 月 23 日 13:36 JST

 米食肉大手OSIグループの中国現地法人「上海福喜食品」が消費期限の切れた肉を顧客企業に納入していたとされる疑惑を受け、同社との関係を断ち切る企業が増えている。食品安全の問題で知られる中国市場で会社の評判を守るためだ。

 ケンタッキー・フライド・チキン(KFC)の親会社である米ヤム・ブランズと、マクドナルドの中国部門は21日に上海福喜からの納入を停止。こうした動きは22日には日本にも拡大した。日本マクドナルドはこの日、上海福喜が納入したチキンナゲットの販売を中止したと発表した。影響は10%の店舗に及んだ。

 米マクドナルドのドン・トンプソン最高経営責任者(CEO)は、22日の決算会見で、この件について、だまされたと感じていると述べた。広報担当者は「当初報道からすると、あったとされる不適切な行為はマクドナルドに分からないように行われていたようだ」と話した。同社は、調査で中国当局と協力しているという。

 OSIグループの中国の担当者は22日のコメント要請に応じなかった。21日には、中国メディアが極端な例を報じているとの見方を示しながらも、全ての責任を負い適切な処置を講じると述べていた。


 まず間違いなく、親会社であるOSIグループは確信犯だろう。個人に罪を被せようとしても、それは無理というものだ。

 さて、ここで考えるべきことは何か。

 マクドナルドやファミリーマートが該当するメニューを販売停止することで問題は解決するのか。 
 中国のこの会社からの輸入を停止することで、食の安全は確保できるのか。
 該当する鶏肉を使っていないケンタッキーや他のコンビニの食品なら安全なのか。
 この杜撰な管理は、上海の工場特有の問題なのだろうか。

 いずれも「否(ノー)!」である。

 ファストフードの構造的な問題に、現場の取材を元に切り込んだ好著がある。
 流通経路全体において、大企業がどんなシステムで食材を加工しているのか、その過程で労働者がいかに差別され搾取されているのか、などについて、2001年に初版発行された本が、あらためて読まれるべき時ではないだろうか。
 
e0337865_16403203.jpg

エリック・シュローサー著『ファストフードが世界を食いつくす』(草思社文庫)

 ジャーナリストのエリック・シュローサーの『ファストフードが世界を食べつくす』は昨年草思社文庫で再刊されて手に入りやすくなった。私も文庫で読んだ。

 目次は次の通り。

[目次]
はじめに
第1章 創始者たち
 スピーディーサービス/模倣者たち/成功のしるし
第2章 信頼に足る友
 マクドナルドとディズニー/よりよい生活という幻想/子どもの顧客をねらえ/完璧な相乗効果/
 ブランドの精神/マック先生とコカコーラ人
第3章 効率優先の代償
 スペースマウンテン/生産量第一主義/おだて—安上がりの秘訣/嘘発見器/
 無気力な若者が増えていく/内部犯罪/楽しくやろう
第4章 フランチャイズという名の甘い誘惑
 新たな信仰への献身/政府融資による自由企業/プエブロの外の世界
第5章 フライドポテトはなぜうまい
 孤立農家の過ち/記憶に刻まれる風味/一〇〇万本のフライドポテト
第6章 専属契約が破壊したもの
 専属供給の圧力/ミスター・マクドナルドの胸/市場の支配/裕福な隣人という脅威/
 断ち切られた絆
第7章 巨大な機械の歯車
 IBP革命/札束の袋/離職率一〇〇パーセント/芳しき匂い
第8章 最も危険な職業
 よく切れるナイフ/最もむごい仕事/見つかるな/腕一本の値段/ケニーの場合
第9章 肉の中身
 新たな病原体にとっての、格好のシステム/国民的食べ物/子どもたちを殺す病原菌/
 必要と考えるすべての費用/意思の問題/なぜ自主回収されないか/放射線“低温”殺菌/
 子どもたちが食べているもの/キッチンの流し
第10章 世界的実現
 マクドナルドおじさんの世界戦略/晒し者/脂肪の帝国/マック名誉毀損裁判/牧場への回帰
終章 お好きなように
 科学的社会主義/何をすべきか/どのようにするか
訳者あとがき



 「はじめに」から、まず引用。

 本書は、ファストフードについて、それが具現化する価値観や、それが築いてきた世界について述べた本である。ファストフードはアメリカ人の生活に革命的な影響を及ぼしてきた。わたしは商品という面からも、象徴(メタファー)という面からも、これに興味を抱いている。人々の食べるもの(あるいは食べないもの)は、どの時代でも、社会的要因、経済的要因、技術的要因の複雑な相互作用によって決定される。初期のローマ共和国は、そに市民である農民に養われていた。ローマ帝国の場合は、奴隷に養われていた。一国の食生活は、ときに、芸術や文学よりも意味深い。現代アメリカでは、いついかなる日をとっても、成人人口の約四分の一がファストフード店に足を踏み入れている。ファストフード産業はかなりの短期間に、アメリカ人の食生活ばかりか、国の風景、経済、労働力、大衆文化までも変容させてきた。


 アメリカの“風景、経済、労働力、大衆文化”にまで影響を与えるファストフードについて、これほどまで真正面から取り上げた書はないだろう。

 「第6章 専属契約が破壊したもの」から引用する。世界最大の鶏肉加工業者タイソンフーズにまつわるエピソードが紹介されている。タイソンフーズはOSIグループよりもはるかに大きな食肉加工業者である。もちろん、OSIがタイソンの仕組みを真似ていることは言うまでもない。

 1992年、アメリカ人の鶏肉消費が初めて牛肉を追い抜いた。 マックナゲット用の契約を獲得したのをきっかけに、タイソンフーズは世界最大の鶏肉加工業者となる。現在、国内向けマックナゲットの約半分を生産し、レストラン・チェーン大手100社のうち90社に鶏肉を納入している。垂直統合が完了していて、鶏の孵化、解体、加工までを手掛けている。ただし、鶏の飼育まではしない。飼育に必要な設備投資と財務リスクを引き受けているのは、数千人の“独立請負業者”だ。
 タイソンと契約した養鶏業者は、鶏舎こそ自前だが、中で飼っている鶏は自分の所有物ではない。大手加工業者の例にもれず、タイソンも、契約業者に一日齢の雛を送り届ける。孵化したその日から屠られる日まで、鶏は一生を養鶏業者の敷地内で過ごす。それでも、所有しているのはタイソンだ。タイソンが飼料を提供し、獣医を派遣し、技術上のサポートを提供する。給餌日程を決め、設備の更新を求め、“家畜指導官”を雇って、会社の指示がきちんと実行されているかどうか確認させる。タイソンの派遣したトラックがやってきて積み荷の雛を降ろし、七週間後にふたたびやってきて、解体を待つばかりの若鶏を運び去る。加工工場に着くと、タイソンが鶏の羽数を数えて体重を量る。養鶏業者の収入は、ここで勘定される羽数と体重、消費飼料費をもとに、一定の計算式に従って算定される。


 まさに、機械的な養鶏の姿が、そこにある。そして、タイソンは鶏肉をファストフードに安定供給するために、養鶏業者をほぼ完全な管理下に置くのである。

 養鶏業者が提供するのは、土地と、労働力と、鶏舎と、あとは燃料だ。大半は借金を負い、一棟あたり約一五万ドルを投じて鶏舎を建て、二万五〇〇〇羽程度を飼育している。ルイジアナ工業大学が一九九五年に行った調査によると、養鶏業者は平均して一五年間にわたって養鶏業を営み、鶏舎を三棟建てて、なおかなりの負債を抱え、年収が一万二〇〇〇ドル程度だった。国内の養鶏業者の約半数は、わずか三年で廃業し、いっさいを売り払うか、失うかしている。アーカンソーの地方の田舎道を行くと、取り残された鶏舎の廃屋がそこここに散らばっている。
 養鶏業者が銀行からローンを取りつけるには、多くの場合、大手加工業者とあらかじめ契約を結んでいることが条件となる。


 零細な養鶏業者は、生き残るためにタイソンやODIなどの大手食肉加工業者の仕事を受けるようになる。
 そして、昼なお暗い養鶏場で、機械的に無理やりエサを与えられ、通常の生育期間よりはるかに短期間に食肉にされる鶏たち。
 そこには手塩にかけて鶏や豚や牛を育てるという思想はまったく排除される。
 その機械的につくられた“消費期限内”の鶏肉を、マックやケンタッキー、そしてコンビニで買って食べているのだ。

 消費期限の問題以前に、ファストフードの食材に関しては、流通経路全体に安全性に限らない数多くの問題がある。
 
 今回の件が、あらためて、「私は何を食べているのか?」「私は子どもに何を食べさせているのか?」という素朴な疑問を思い起こすきっかけになれば良いと思う。
 
 TPPによって、アメリカの大手食品会社、食肉加工業者がアメリカ流の「食品」を日本市場で展開しようとするだろう。
 彼らが好きな言葉は、効率、大量生産、低コスト、マニュアル、など。
 それらの言葉と相反する日本の畜産や農業はいったいどうなるのか。手塩にかけて安全な食材をつくっている日本の農家や養豚、養鶏業者などが経済の論理、自由競争の名のもとに生きづらくなるのである。

 何を食べ、何を食べないか、これは重要な問題だ。
 
 この本の内容は、今後も紹介したい。自分たちがいったい何を食べているのかを、あまりにも知らない人が多すぎるように思うのだ。
[PR]
東京五輪会場問題、東京新聞が社説で真っ当な指摘をしている。

東京新聞の該当社説

【社説】
五輪会場見直し モッタイナイの精神で
2014年7月22日

 自然、文化、景観、それに財源。二〇二〇年東京五輪・パラリンピックの会場計画見直しではバランス感覚が大切だ。市民の声を聞き、後世に「負の遺産」を残さぬよう賢い最終形を目指したい。

 五輪では二十二の競技会場が新設される段取りだった。国が主会場の新国立競技場を手掛け、東京都が十の恒久施設、組織委員会が十一の仮設施設を受け持つ。

 当初見込んだ総事業費は四千五百五十四億円。しかし、景気の復調に伴い資材価格や人件費が大幅に膨らみ、計画の軌道修正が避けられなくなった。

 東京招致の功を焦り、大風呂敷を広げたつけが回ってきたということだろう。「もったいないの精神」に立ち返って経費圧縮に最善を尽くし、内外への説明責任を果たさねばならない。

 中でも、国立競技場の建て替えは大きな問題を抱えている。八万人収容、開閉式屋根、そして、このために風致地区の制限を取り払ったとされる七十メートルの高さだ。

 巨大過ぎて、明治神宮外苑の歴史的景観や周りの自然環境が壊れる。膨大な建設費がかかるし、五輪後の収支に不安がある。近くの都営アパートで暮らす多くの高齢住民が立ち退きを強いられる。

 政官財とスポーツ界の一握りの人たちが、情報を伏せたまま結論ありきのように計画を進めた経緯も本紙の調べで明らかになっている。蚊帳の外に置かれた市民から批判が相次いだのも当然だ。

 建設を担う国側の日本スポーツ振興センターは出費を抑えるためにも、延べ床面積を当初より二割余り縮めた設計案を決めた。しかし、懸念には応えていない。

 世界的な建築家の伊東豊雄氏の改修案が注目されている。現競技場の一部建て直しで、周辺の環境を損なわずに八万人を収容できる。工事費も全面建て替えの半分程度という。解体を中止し、真剣に検討し直すべきではないか。

 五輪を通して成熟した民主社会のありようを発信するなら、その過程には市民参加が欠かせない。戦災復興の象徴を保存しつつ震災復興の証しへとつなぐ。草の根の知恵を生かしてこそ最高のおもてなしの舞台になるはずだ。

 既存施設を修理しても使えない場合のみ新設できる。国際オリンピック委員会は行動計画でそう表明している。都や組織委も一部会場の新設を取りやめる考えだ。

 公約通り選手村から八キロ圏内に会場の85%を収めるのは難しそうだが、器より心を大切にしたい。


 この件については以前にも書いているので、ご興味のある方はご覧のほどを。2014年5月28日のブログ

 五輪誘致のプレゼンテーションで、ある女性タレントが、「お・も・て・な・し」と“しな”をつくって語るのを見て、私は虫唾が走った。

 海外の五輪を見物に(応援でもいいが)来ることのできる外人さんは、決して食べるのに困るような人ではないだろう。どちらかと言うと裕福な部類に入るのではないか。

 日本には大震災や原発事故で、3.11以前の生活環境を回復できないままの人が、まだたくさんいるのだ。

 多額の血税を五輪にやって来る外人観光客へのもてなしのために使う前に、その税金の使い道があるはずだ。そして、五輪でふたたび建設という名の破壊を行なう前に、まず震災や原発事故によって破壊された街の復興が優先されるべきだろう。

 復興庁が、安易に問題を収めようとして避難指示を解除するつもりだった福島県川内村では、現場の猛烈な抗議に直面した。毎日新聞の該当記事

川内村・住民懇談会:反発強く26日避難指示解除見送り
毎日新聞 2014年07月13日 21時37分(最終更新 07月13日 22時10分)

 東京電力福島第1原発事故に伴い避難指示解除準備区域に指定された福島県川内村東部について、政府は13日、村内と同県郡山市で住民懇談会を開き、26日に避難指示を解除する方針を提示した。住民はインフラ整備の遅れなどを理由に反発。遠藤雄幸村長も「時期尚早」との見解を示し、政府は26日の解除を見送る方針を示した。

 懇談会には政府の原子力災害現地対策本部と復興庁などの担当者が出席。除染が完了し6月中に実施したモニタリングで年間被ばく線量が20ミリシーベルト以下になったことを確認し、交通や買い物の環境が改善したと説明した。住民は「(商店や病院などがある)他町村が帰還できなければ、インフラが戻ったとは言えない」「除染土の仮置き場が撤去されていない」などと訴えた。

 懇談会後に報道陣の取材に応じた遠藤村長は、除染効果を検討する村の検証委員会を今月設置したばかりで、道路の復旧工事の見通しが立つのが8~9月になることから「26日解除は早い」と話した。復興庁の熊谷敬統括官は「村と解除の日程を協議したい。26日はない」と明言した。

 政府は、解除と同時に村の居住制限区域を避難指示解除準備区域に変更する方針も伝えたが、これについても村と協議して決める。

 同村東部の原発20キロ圏内の避難区域(157世帯329人)のうち、同準備区域(139世帯275人)では、自宅で寝泊まりできる長期宿泊が4月に始まり、今月25日に終了するが、登録者は約20世帯にとどまっている。【深津誠】


 年間20ミリシーベルト以下だから安全、などという嘘を当り前のように「すりかえ」ようとしていることも大問題だが、生活基盤の確保もできていない状況で、「解除しました、住めますよ」などと言う復興庁の言い分は、避難者への国や東電の負担を抑えるための方便として思えない。20ミリシーベルトはIAEAという世界で原発を推進する組織が「緊急時」の基準として「1~20ミリシーベルト」と根拠なく算出している基準の最大値を採用しているのである。この件、どのメディアもだんまりになってきた・・・・・・。
 20ミリシーベルトの問題にご興味のある方は過去の記事をご覧のほどを。2011年12月16日のブログ

 東京五輪に戻る。「おもてなし」という言葉で誤魔化され、無駄に血税を使われて、江戸・明治・大正・昭和と続く古き佳き日本の姿が破壊され、五輪後にほとんど使い道のないハコモが残るのでは困る。

 合言葉は「もったいない」であるべきだ。そして、少しでも予算に余剰が生まれたなら、そのすべては大震災と原発事故による被災者のために使われるべきだと思う。

 もし、年間20ミリシーベルトなら安全、と言い切るなら、五輪の会場や外人選手の宿舎を福島県の川内村に設置してはどうか。東京から遠かろうが、ブラジルのサッカーワールドカップで日本代表が移動した距離を考えればまったく問題なかろう。インフラ整備も五輪用の予算を使うことができるではないか。それができない理由は・・・政府は百も承知である。
[PR]
e0337865_16401508.jpg

むのたけじ(聞き手 黒岩比佐子)『戦争絶滅へ、人間復活へ』

 黒岩比佐子さんの聞書きによる、むのたけじ『戦争絶滅へ、人間復活へ』は、2008年7月に岩波新書で発行された。副題は「九十三歳、ジャーナリストの発言」である。だから、むのたけじさんは今年で九十九歳、である。
 本書については、五代目小さんに関する部分を、以前紹介したことがある。ご興味のある方はご覧のほどを。
2013年10月20日のブログ

 すでに「ジャーナリズム」「ジャーナリスト」という言葉が日本では実質的には“死語”に近くなったと思っているが、この本は、現在もジャーナリズム精神を忘れない骨太の人物の熱い言葉の宝庫である。
 本田靖春とは別な生き方ながら、私はむのたけじさんと本田さんの二人は、間違いなく骨太のジャーナリストだと思っている。

 「第2章 従軍記者としての戦争体験」から引用。先に黒岩さんの問いかけがある。

「すりかえる」権力、「するぬける」民衆

 ‐私は明治の日露戦争に関心があるのですが、昭和の戦争の前に、二十世紀に入ってすぐ、日本はロシアと戦っています。日露戦争では、日本が大勝したように報じられていましたが、あと一年続いていたら日本は兵力も資金も使い果たして、多分ロシアに負けていただろうという状況でした。ところが、ポーツマス講和条約で償金はなし、領土も樺太の半分しか取れなかったため、怒った群衆による日比谷焼打ち事件という大暴動が起こります。でも、戒厳令が若かれて軍隊が出動すると、あっという間に鎮圧されて、政府の責任を問う声はうやむやになってしまいました。結局、そのときの教訓がまったく生かされていない、という気がします。 

 本当は、あの日露戦争のあとで、きちんとけじめをつけなければいけなかった、でも、その深い根っこについて言うと、日本の支配権力と支配される民衆の相互関係に、そういうふうにさせるものがあるんです。それは何かと言うと、支配階級は「すりかえる」んだ、いつでも。
 この「すりかえる」手口というのはさまざまで、たとえば、戦争体制の準備を「有事」なんていう言葉でごまかす。こうしたことは、一朝一夕にできたものではありません。まるで、呪いをかけて人間を金縛り状態にしてしまうような、そんな支配力が民衆の中に作用している。
 私の考えでは、それは四百二十年前に豊臣秀吉が行った刀狩りの手口に行きつく。農民の武装解除をするための「刀狩り」なのに、「その刀で梵鐘をつくってお寺に納めれば、極楽へ行ける」というように言う。農民から武器を奪っておとなしくさせるために、秀吉が編み出したのは、まさに「すりかえ」を武器にした支配構造でした。
 でも、民衆はそれにだまされているばかりではなかった。徳川時代の正味二百七十年間のうち、後半の百二十年から百三十年のあいだに、だいたい三千件の百姓一揆が起こっている。そのうち、一番多いのが東北地方でした。成功した一揆というのは、岩手で一件だけありますが、それ以外はほとんど全部、首謀者もその家族もみな処刑されました。
 そして、明治になった一年目から、福島の郡山で、もう一揆が起こっているんですよ。いまの固定資産税に相当する税金があまりに高いので、地主階級が各地で一揆を起こした。これは八年ぐらい続いて、四十数万人lが処罰されています。ですから、これほどの闘いをする力も日本の民衆のなかにあるといえますが、権力との闘いにはじつに多くの犠牲を作った。
 そのため、「すりかえる」権力に対して、民衆の側は「すりぬける」ということを考えたのです。要するに、真正面からぶつからない。だから、日露戦争が終わったときにも、立ち止まっていったん総括する、ということをしなかった。なんとなく「すりぬける」ことですませてしまう。それが、ずっと続いてきたのです。


 黒岩さんの主要テーマの一つに関して、『日露戦争 勝利のあとの誤算』(文春新書)が上梓されたのは2005年。
 かつての一揆など民衆の闘う力も凄いものがあったが、大きな犠牲を重ねた結果、民衆側も権力の「すりかえ」に対し「すりぬける」という処世術を身につけた、ということなのだろう。
 このあと、次の内容で、この章は締められる。

 ‐たしかに、日比谷焼打ち事件のときも、政府は戒厳令や軍隊の出動で民衆の不満を抑え込む一方、帰還する兵士たちの凱旋パレードや戦勝祝賀会を何度もくり返し、それによって民衆を熱狂させて、講和への不満をそらしてしまいました。「すりかえる」ということは、権力者の常套手段ですね。

 満州事変が起こったときも、柳条湖で満鉄の線路を爆破したのが張学良ではなく関東軍の陰謀だったことは、まもなくわかるんです。その時点で、新聞などがそれをあばいて書けばいいわけでしょう。ところが、ずるずるとそのまま行ってしまった。
 ずるずると盧溝橋事件へ行き、真珠湾奇襲へ行ってしまう。節のない青竹と同じで、外から見れば勇ましそうだけれども、中身はまったくつまっていない。そして、ずるずるとそのまま敗戦まで行ってしまったんです。
 この「すりかえる」と「すり抜ける」という構造から、いまだに私たちは抜け出せていないのではないか、という気がしますね。


 むのたけじさんの危惧は、残念ながら当たっている。
 権力側は「すりかえる」方策をふんだんに散りばめている。
 そもそも、積極的平和主義とは何か・・・・・・。
 本当に積極的に平和を希求するのなら、戦争を放棄することである。
 もし第9条を堅持する日本であれば、現在のウクライナとロシア問題、イスラエルとガザの問題に、平和国家日本として貢献できる道もあろう。
 しかし、アメリカの軍事的属国となり下がった国は、そんな国際貢献などを期待できる、尊敬される存在意義をなくした。

 民衆の側を、あえてメディアとして捉えるならば、やはり「すりぬける」ことに比重がありそうだ。
 残念ながら集団的自衛権も原発再稼動も、異を唱えるメディアが協力して相乗効果を発揮することはなく、個々の媒体の犬の遠吠えになりそうではないか。

 そして、政府の「すりかえ」は、今日もメディアをにぎわせている。

 沖縄の負担を軽減させるために、米軍再編交付金を都道府県に配布するらしいが、これは都道府県に対して、オスプレイ配置や米軍への協力のための“口止め料”に近いのではないか。時事ドットコムの該当記事

政府、都道府県に米軍再編交付金 沖縄の負担軽減へ

 政府は、在日米軍再編で基地負担が増える都道府県を対象に、交付金を支給する新制度を創設する方向で検討を始めた。政府関係者が21日、明らかにした。11月の沖縄県知事選をにらみ、在日米軍基地を抱える都道府県に対し、沖縄の基地負担軽減への協力を促す狙いがある。

 2007年に成立した米軍再編推進法に基づき、米軍の部隊や航空機などが移駐して周辺住民の負担が増える市町村を対象に、再編交付金が支給されている。防衛省によると、昨年度までに約40市町村が対象自治体に指定済み。検討中の新制度では、対象を都道府県に広げる。
2014/07/21 12:57 【共同通信】


 「沖縄の負担軽減」という言葉そのものが「すりかえ」である。なぜ、負担が軽減されるの?

 政府は沖縄県に対して、この交付金をアメとムチとして使い分けてきた。米軍に協力しなければ減らずぞ、と脅していたのだ。
 沖縄県以外で、過去にこの交付金が無駄なハコモノを作らせた実例もある。原発立地地域への電源三法の扱いと相通じるものだ。

 なぜ、今、全国で「米軍再編」のために我々の血税が使われなくてはならないのか・・・・・・。

 相変わらずの電源三法と同様の、安倍政権による無駄遣いが、また始まろうとしている。

 「すりかえ」を「すりぬけ」でばかりでは、日本の病理は治癒できようもない。

 まさに今、再び軍国化する日本の民衆、なかでもメディアの了見が問われている。
[PR]
原子力規制委員会が、やはり、原子力“寄生”委員会であることを露呈する川内原発再稼動推進への判断が出た。

 7つの市民団体からの抗議声明を全文引用する。
GREEN ACTIONサイトの該当ページ

川内原発の新規制基準適合性審査 原子力規制委員会による審査書案に抗議する共同声明

2014年7月16日

原子力規制を監視する市民の会など7団体

 本日、原子力規制委員会は、九州電力川内原発の新規制基準適合性審査に関し、合格通知にあたる審査書案を提示した。これに強く抗議する。
 川内原発の新規制基準の適合性審査については、東京電力福島第一原発事故の教訓を踏まえたものにはなっておらず、以下の理由からも、とても合格通知案が出せる状況にはない。

1.火山影響評価では噴火の予測はできないとの専門家の警告を認めながらも審査では無視し、自ら定めた火山影響評価ガイドにも違反している
•原発の運用期間中に巨大噴火(カルデラ噴火)が生じる可能性について、これが十分に小さいとする九州電力が、十分な根拠を示していないにも関わらず、規制委・規制庁は、火山の専門家が一人もいない状況で、専門家に意見を聞くこともせず、ほとんど議論もなしに素通りさせてしまった。
•火山の専門家が、巨大噴火(カルデラ噴火)の予測は難しいと訴える中、政府も、噴火の規模や時期をあらかじめ予測することは困難であることを認めている。火砕流に対しては、事前に核燃料を搬出する必要があり、これに何年もかかることから、噴火の規模と時期の予測は必須である。にもかかわらず、これを中長期的な課題として放り投げ、モニタリングの実施だけで素通りさせてしまった。

2.重大事故時に生じる汚染水が海などへ流出することを防止する対策が全くとられていない
新規制基準は、重大事故時に、格納容器が破損した場合でも、放射能の拡散を抑制する対策をとるよう要求している。また、東京電力福島第一原発事故の教訓を踏まえるとしているが、現在福島第一原発において深刻な事態を引き起こしている汚染水流出の事実が適合性審査の過程で完全に無視され、川内原発に対しても流出防止対策が要求されていない。
さらに、川内原発では一日三百トンの地下水をくみ上げているが、重大事故時にくみ上げるポンプが止まると、地下水が建屋内に流入し、格納容器の下部から漏れた冷却水である汚染水と混ざり、大量の汚染水となるおそれがあるが、こうした事態を防止する対策もとられていない。

3.重大事故時の格納容器破損や水素爆発の可能性について、解析コードの信頼性を確認するためのクロスチェック解析が行われておらず、防止対策が十分でない
冷却水喪失と電源喪失が重なるような重大事故時に、九州電力は、原子炉圧力容器の冷却を放棄し、格納容器下部に水を張って溶融燃料をそこに落とすという驚くべき対応を行うとしている。その場合でも、格納容器の破損や水素爆発に至らないとの根拠に用いられているのが、コンピュータを使った解析である。
しかし、九州電力による解析では、信頼性に疑問が出ている解析コードが用いられており、これに対し、規制委・規制庁側で、通常は行われるはずの、別の解析コードを用いた「クロスチェック解析」は行われていない。

4.地震動の想定が過小評価になっている
耐震安全性評価で用いる地震動の想定において、津波評価では用いられている日本の特性を考慮した武村式を用いた評価を行っていない。武村式を用いた場合、地震の規模は約2倍となる。
 また、審査の過程で、火山影響評価などで新規制基準の不備が明らかになっているが、田中俊一委員長も認めるように、新規制基準は原発の安全を担保するものではない。さらに、田中俊一委員長が、新規制基準と並んで車の両輪と例えた避難計画については、
•要援護者の避難計画について、鹿児島県が原発から十キロ以遠について、計画の立案を放棄し、福祉施設や病院に立案と責任を押し付けている状況の中で、全く目途が立っていない。避難弱者を見殺しにするものとなっている
•一般の避難計画についても、避難先が狭すぎて居住できる環境ではない、避難先が風下になる可能性がある、原発事故と地震や津波などとの複合災害について考慮されていない、ヨウ素剤の配布の計画が立っていない、スクリーニングポイント(避難の途中で計測と除染を行う地点)が決まらず目途が立っていない、三十キロ以遠でも避難が必要となる可能性について考慮されていない、等々

課題山積である。実効性ある避難計画は立案されておらず、計画を具体化すればするほど、避難の困難さが浮き彫りになるだけである。
 こうした状況で、川内原発の再稼働手続きが進むことは許されない。原子力規制委員会は審査書案を撤回すべきである。川内原発を再稼働させてはならない。

以上

原子力規制を監視する市民の会
反原発かごしまネット
玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会
グリーン・アクション
美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会
国際環境NGO FoE Japan
福島老朽原発を考える会



 3月に愛媛を中心に最大震度5強の地震があった時、中央構造線のい近い川内や伊方の問題について書いた。
2014年3月14日のブログ
 その際の記事から、再度、川内原発がどれだけ危険な場所にあるか。地図で紹介する。

 中央構造線は地震大国日本における大通りとも言ってよく、いつ地震を引き起こすか分からない活断層が存在する一帯である。

*図は「中央構造線」のWikipediaより。 
e0337865_16392296.png

「中央構造線」のWikipedia

 電力会社は、天下り先としても、また原子力村を量的に強固に構成するためにも数多くの組織を持っているが、一般社団法人日本原子力産業協会という組織のサイトから、原発立地地図を借りた。ぜひクリックして拡大しご覧いただきたい。
一般社団法人日本原子力産業協会サイトの該当ページ

e0337865_16402389.jpg


 ご覧のように、伊方や川内は、中央構造線に非常に近い位置に立地している。

 その川内を再稼動の第一号にすべく政府や原子力“寄生”委員会は動いている。

 止まっている状態ですら、川内原発や伊方原発は大地震による事故の危険性がある。

 今回のように地震があるたびに、「伊方は大丈夫か?」「川内は大丈夫か?」という不安に怯えて暮らすのが今後も日本人の宿命になるなんて、まっぴら御免である。
[PR]
元毎日新聞記者の西山太吉さんが、人生を賭けて闘っているように思う沖縄密約事件について、最高裁が実に理不尽な結論を出した。(太字は管理人)
東京新聞の該当記事

沖縄密約の歴史、闇に 最高裁「請求者に立証責任」
2014年7月15日 07時08分

 一九七二年の沖縄返還をめぐる日米間の密約文書開示訴訟の上告審判決で、最高裁第二小法廷(千葉勝美裁判長)は十四日、元毎日新聞記者西山太吉さん(82)ら原告側の逆転敗訴とした二審判決を支持し、上告を棄却した。西山さんらの敗訴が確定した。行政機関が存在しないと主張する文書について「開示の請求者側に存在を立証する責任がある」との初判断を示した。裁判官四人の全員一致の意見。

 情報開示を求める市民に重い立証責任を課した判断で、特定秘密保護法の施行を控え、国民の知る権利に大きな制約を与えそうだ。

 判決理由で千葉裁判長は「いったん文書があると立証された場合、その後も行政機関が持っていると認められるかどうかは文書の内容や性質、作成の経緯などに応じて個別具体的に検討すべきだ」と判示。文書廃棄などの立証責任を行政側に負わせた一、二審とは異なる判断を示した。

 その上で、密約文書の探索調査をした外務、財務両省が「文書は見つからなかった」としたことを踏まえ、「交渉過程で作成されたとしても、不開示決定時に文書があったと認めるには足りない」と結論づけた。密約の存在を認めた一、二審の判断は維持した。

 一審・東京地裁判決は、米国立公文書館で見つかった米公文書や元外務省局長の法廷証言を基に、国が文書を作成、保有していたと認定。国に文書の全面開示を命じ、原告一人当たり十万円の賠償も認めた。二審・東京高裁判決も国が過去に文書を保有していたことは認めたが「外務、財務両省が秘密裏に廃棄した可能性を否定できない」とし、不開示は妥当と判断した。

 西山さんらは、日本が米軍用地の原状回復費を肩代わりするなど三つの密約に関する文書を開示請求。外務、財務両省は二〇〇八年、文書の不存在を理由に開示しなかった。


 裁判の経緯は、一審、二審、最高裁の三審になるにつれて、国(≒永田町&霞ヶ関)有利な、まったく理不尽な判決と言わざるを得ない。三審制は、誰のためにあるのか・・・・・・。

 記事の後半にある次の西山さんの言葉の通り、日本の民主主義がどんどん崩壊しつつある。もちろん、安倍政権によって、である。

国の主張を正当化

 西山太吉さんの話 日米政府が共同して国民をごまかすために作ったのが密約文書で永久に保存されるべきだ。最高裁判決は、その文書がないという国の主張を正当化した。国民主権にのっとった情報公開の精神がみじんもなく、民主主義の基礎を崩壊させかねない。

 <沖縄返還協定の密約> 1972年5月に発効した沖縄返還協定をめぐる日米の交渉過程で、米軍用地の原状回復費400万ドルや米短波放送中継局の国外移設費1600万ドルを日本政府が肩代わりし、協定で定められた米国への支出金に上乗せして負担することにした密約。「沖縄を金で買い戻した」との批判が予想されたため、国民には伏せられた。毎日新聞記者だった西山太吉さんが外務省の極秘公電を入手し、報道で密約を示唆したが、公電を提供した同省女性職員とともに国家公務員法違反罪で起訴され、2人の有罪判決が確定した。2000年以降、米国立公文書館で密約文書が見つかり、外務、財務両省は10年3月に「広義の密約」があったと認めた。

(東京新聞)



 朝日では、今回の最高裁判断について次にように書かれている。
朝日新聞の該当記事

 国が密約の存在を認めたのは、西山さんが暴いてから38年後の2010年。自民党から民主党に政権交代し、外務省は09年、岡田克也外相(当時)の指示で沖縄返還などの関連ファイル4千冊超を調査。有識者らの委員会が10年に「広義の密約があった」との報告をまとめた。

 国は二審で、この調査結果をもとに「文書については探したがなかった」と主張し、東京高裁も認めた。ただし、二審判決は「文書は通常とは異なる場所で限られた職員しか知らない方法で管理された可能性が高い」と言及し、「秘密裏に廃棄された可能性もある」と指摘した。

 一方で、最高裁はこの日、「行政機関が存在しないとした文書の開示を裁判で求める場合は、請求した側が文書の存在を立証する責任がある」との初判断を示した。

 NPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長は「報道によって文書の存在がわかった今回のケースは異例であり、情報公開の請求者が文書の存在を証明するのは現実的には困難だ。判決はこの実態にお墨付きを与えるものだ」と批判する。

 仮に国による意図的な文書隠しがあっても、国が「ない」とすればそれを暴くこともできなくなってしまう。「国民の共有財産をしまい込み、都合が悪くなれば捨てるような国の姿勢こそ、厳しく断罪する必要がある」

 西山さんとともに会見した原告で、密約事件についての著作がある作家の沢地久枝さんは「今後も密約文書の行方をはっきりさせる努力をしていく」と力を込めた。


 民主党政権下とはいえ、外務省は、密約の存在を“有識者”から指摘されているのだ。

 立証するったって、今後は特定秘密保護法が、その立証を阻むわけだから、役所が「ない」と言う情報をあぶり出すのは、ますます難しくなる。最高裁は、そういうことも踏まえて、安倍政権の圧力を受け、秘密国家化の片棒を担ぐのだろうか。三権分立の名が泣く。

 アメリカで公開された情報で密約の存在は明白。加えて、外務省の元局長が密約の存在を認めてもいるのだ。
 東京地裁が、もっとも真っ当な判断を下している、としか言いようがない。

 その元外務省局長については、北海道新聞の過去の記事からご紹介。
北海道新聞サイトの該当記事

2006/02/08(水)朝刊
1971年 沖縄返還協定 「米との密約あった」
佐藤首相判断で400万ドル肩代わり 外務省元局長が認める

 沖縄の祖国復帰の見返りに、本来米国が支払うべき土地の復元費用を、日本が肩代わりしたのではないかとされる一九七一年署名の沖縄返還協定について、当時、外務省アメリカ局長として対米交渉にあたった吉野文六氏(87)=横浜市在住=は、七日までの北海道新聞の取材に「復元費用四百万ドル(当時の換算で約十億円)は、日本が肩代わりしたものだ」と政府関係者として初めて日本の負担を認めた。

 この肩代わり問題は外務省密約事件として知られ、警視庁が当時の毎日新聞記者西山太吉氏(74)を逮捕、国民の知る権利をめぐる論議になった。

 四百万ドルは、米国が軍用などに接収していた土地を、元の田畑などに戻すための費用。「米国が自発的に払う」と同協定四条で決めた。一方、七条は、沖縄にあるとされる核兵器の撤去や、米国資産の買い取りのため日本が米国に三億二千万ドル払うと決めており、西山氏らは電文などをもとに「三億二千万ドルの中に四百万ドルが含まれている」と主張してきた。

  吉野氏は「当時のことはあまりよく覚えていない」と断った上で「国際法上、米国が払うのが当然なのに、払わないと言われ驚いた。当時、米国はドル危機で、議会に沖縄返還では金を一切使わないことを約束していた背景があった。交渉は難航し、行き詰まる恐れもあったため、沖縄が返るなら四百万ドルも日本側が払いましょう、となった。当時の佐藤栄作首相の判断」と述べた。

 また、日本政府が、円と交換して得た返還前の通貨、米ドルを無利子で米国に預託し、自由に使わせたことも明らかにした。金額には言及しなかったが、米側文書によると、連邦準備銀行に二十五年間無利子で預け、利息を含め計算上約一億千二百万ドルの便宜を与えたとみられる。

 これらの肩代わりや負担は、これまでマスコミや沖縄の我部政明琉球大教授(国際政治)が、米国の情報公開法で米側外交文書を入手し、指摘してきた。しかし、日本政府は否定し続け、情報公開もしていない。外務省は「現在、西山氏から当時の報道は正しかったと謝罪を求める裁判を起こされており、コメントできない」としている。

 我部教授は「証言が正しければ、米側外交文書を裏付けたことになる。日本政府は負担を三億二千万ドルと言っているが、米側文書によるとこのほか、基地の施設改善移転費などが七千五百万ドルあり、現在の巨額の思いやり予算につながっている。政府はきちんと説明すべきだ」と話している。


 こういう証言があったにもかかわらずの、今回の最高裁、なのだ。

 吉野文六元局長の言葉を続ける。

 「西山さんの言ってることは正しい」

 吉野文六元外務省アメリカ局長は、続けてこう言って苦笑した。

  「だから機密扱いなんです」

 一九七二年、国会で横路孝弘衆院議員(現副議長)から「沖縄返還には密約がある」と追及された。証拠の外務省機密電文のコピーを持っているというので、電文の原本を持ち、国会内の小部屋で見せ合った。本物だった。

 秘話がある。吉野さんは、横路氏と見せ合う前に、総裁派閥佐藤派の実力者二人に相談した。そして二人の言葉に驚く。「おまえ、何言ってるんだ。外務省の電報なんて前からおれたちのところにもこんなに来ているぞ」

 政府与党は一体だから外務省が実力者に情報提供することはあるだろう。だが、もし、別ルートの情報流出が常時あったとすると、問題の様相はまったく異なってくる。
二人は故人となり、真相はやぶの中だ。

 電文を見せ合った直後、警視庁は、外務省女性職員が毎日新聞の西山太吉記者に国家機密を漏らしたとして、二人を国家公務員法違反の疑いで逮捕する。吉野さんは西山さんをよく知っていた。

 「新聞記者なら機密を書くのが本能でしょうから、西山さんのやったことは仕方がない。でも、交渉の最中に機密の話が漏れると、相手から信頼されなくなる。米国側から苦情を言われたわけではないですよ。だが、過程を明かさないのは外交の常識。西山さんの書いたことが真実かどうかという問題と、機密漏えいを司法が罰するかどうかは別問題です」

 事件で、毎日新聞を退社、現在北九州市に住む西山さんは反論する。

  「機密は権力の都合のいいよう、時には秘匿され、時には世論誘導のため漏らされる。外務省の立場には何ら拘束されず、新聞は過程を報道しなければならない」

  昨年「政府はウソをついた。報道は正しかった」と国に謝罪を求める民事訴訟を起こした。怒りは募る。

 「四百万ドルを肩代わりしたという吉野さんの言葉が本当だとすると、私の主張を事実上認めたことになる。米国の情報公開文書も正しかったということだ。先進国なら二、三十年もたてば公文書を公開する。日本はなぜしない」

 問題は四百万ドルにとどまらない。協定七条で日本側が負担する三億二千万ドルの内訳は、水道、電気など米国が造った資産の買取費一億七千五百万ドル、沖縄に貯蔵されていたとされる核兵器撤去費用七千万ドル、人件費増加分七千五百万ドルだ。しかし、吉野さんは言う。

  「はじめ米国が無償で沖縄を返すというので、佐藤首相も無償返還をバーンとぶち上げた。ところが、まず大蔵省が折衝を始めたら、米国はこれだけ日本でもってくれとリストを出してきた。外務省は驚きましたよ。三億二千万ドルだって、核の撤去費用などはもともと積算根拠がない、いわばつかみ金。あんなに金がかかるわけがない。費用を多くすればするほど『核が無くなる』と国民が喜ぶなんていう話も出た。三億二千万ドルの本当の内訳なんて誰も知らないですよ」

 マスコミや琉球大の我部政明教授らが米国の情報公開で調べた日本側の財政負担は、このほかに《1》円と交換した返還前の通貨、米ドルを二十五年無利子で米国に預金(一億千二百万ドル相当)《2》基地施設改善移転費六千五百万ドル《3》労務管理費千万ドル−がある。吉野さんは無利子預金については一部認めたが、他は「よく覚えていない」という。

 現役時代、国会答弁では、知らぬ、存ぜぬを繰り返してきた。だが今「もう年で記憶がない」と言いながら、知られていない背景説明を語り、固有名詞を次々に繰り出す。吉野さんはこうつぶやいた。

  「国会で『記憶にありません』と答弁したら、本当に記憶に無くなる。過去を振り返らないようになります。意識的に忘れようとする。大部分は不愉快なことですから。覚えていることを覚えていないというんだから」 (編集委員 往住嘉文)



 再度引用するが、吉野元局長が2006年に語った、次の内容に驚くではないか。

「はじめ米国が無償で沖縄を返すというので、佐藤首相も無償返還をバーンとぶち上げた。ところが、まず大蔵省が折衝を始めたら、米国はこれだけ日本でもってくれとリストを出してきた。外務省は驚きましたよ。三億二千万ドルだって、核の撤去費用などはもともと積算根拠がない、いわばつかみ金。あんなに金がかかるわけがない。費用を多くすればするほど『核が無くなる』と国民が喜ぶなんていう話も出た。三億二千万ドルの本当の内訳なんて誰も知らないですよ」

 沖縄返還問題は、まだ終わっていない。これまでに、いかに理不尽な要求をアメリカから飲まされてきたのだろうか。

 8年前の西山さんの言葉を、再度。
  「四百万ドルを肩代わりしたという吉野さんの言葉が本当だとすると、私の主張を事実上認めたことになる。米国の情報公開文書も正しかったということだ。先進国なら二、三十年もたてば公文書を公開する。日本はなぜしない」

 吉野元局長が密約の存在を語った時に、安倍は官房長官だった。彼はどう対応したのか。
 西山さんについては、昨年11月に、参院の国家安全保障特別委員会に参考人として登場された時に兄弟ブログ「噺の話」で記事を書いた。その時に引用した日本記者クラブでの会見に関する11月19日の朝日から再度抜粋。
「噺の話」2013年11月22日のブログ

 2000年、アメリカは日本との沖縄返還交渉の外交文書を一挙に公開した。そこには西山さんがつかんだ密約が明らかにされていた。ふつうはそれで日本政府も兜(かぶと)を脱ぐだろう。ところが違った。外務省は密約の当時のアメリカ局長吉野文六氏を呼んで「密約は一切ないと言ってくれ」と口止めをした。吉野さんはOKした。外務省はあわてて日本側の資料を焼却した。1200トンに及ぶ量だった、と西山さんは語った。

 2006年、吉野さんは良心の呵責(かしゃく)からか、「密約に私が署名した」とマスコミに告白した。それでもなお、当時の安倍晋三官房長官、麻生太郎外相、河相周夫北米局長は「密約はない」と言い張った。このシラの切り方は尋常な「秘密体質」ではない。



 安倍晋三の「秘密体質」は、まったく変わっていない。より一層厚い鎧で覆われているかもしれない。

 特定秘密保護法と集団的自衛権により、ますます国民の死活問題が秘密のままに扱われる危険性が出てきた。
 北海道新聞の12日の記事から。北海道新聞の該当記事

集団的自衛権行使 秘密保護法「盾」に自衛隊派遣理由、秘匿も 国民議論できぬ恐れ
(07/12 09:44、07/12 09:49 更新)

 政府が集団的自衛権を行使し、米国の要請などで自衛隊を派遣する際、その理由が国民に十分に知らされない恐れが出ている。今年12月に施行される特定秘密保護法を「盾」に、政府が判断に至る議論を秘匿する可能性があるためだ。専門家は自衛隊派遣の是非を国民が判断できないまま、政府が戦争に突き進むことに警戒感を募らせている。

 特定秘密保護法は、政府が「漏れると安全保障に著しい支障を与える恐れがある」と判断した情報を特定秘密に指定できると定める。対象となる防衛や外交など4分野23項目のうち、参戦理由は「外国や国際機関との交渉内容や方針のうち安全保障に関する重要なもの」に当たる可能性が高い。森雅子内閣府特命担当相は11日の記者会見で「23項目に該当する場合に主務大臣が秘密指定する。それに該当するかどうか、という話になる」と述べ、参戦理由が特定秘密になる可能性を認めた。

 集団的自衛権は、日本と関係が密接な他国への武力攻撃が発生し、日本人の生命や権利が「根底から覆される明白な危険」があると判断すれば発動できる。実際に米国などから協力要請があった場合、国家安全保障会議(NSC)で審議し、内閣が決定するが「安全保障に著しい支障を与える恐れがある」と判断されれば、詳細な理由や議論の過程は秘密となる。第1次安倍内閣で防衛担当の内閣官房副長官補を務めた柳沢協二氏は「米艦が攻撃を受けて日本に防護要請した場合、なぜ米艦が攻撃を受けたのか—といった米軍の行動に関する情報は秘中の秘。表に出てこないだろう」と指摘。「そこを議論しないと参戦の正当性は説明できないが、材料が提供されない可能性は高い」とみる。

 ベトナム戦争では、1964年にベトナム沖で米艦が攻撃を受けたトンキン湾事件をきっかけに各国が参戦したが、その後、事件の際の攻撃は米国の捏造(ねつぞう)だったことが発覚した。当時の日本は集団的自衛権が行使できず参戦しなかった。特定秘密保護法が施行されれば、こうした情報も検証できなくなる恐れがある。

 米軍の動向に詳しいNPO法人ピースデポ(横浜)の塚田晋一郎事務局長代行は「秘密法は何でも秘密にできて、何が秘密か分からないのが特徴だ。参戦後、米軍などと理由をねじ曲げる恐れもある。こんなことで自衛隊が危険にさらされていいのか」と疑問視している。(東京報道 村田亮)<北海道新聞7月12日朝刊掲載>



 今回の判決や諸々を思うと、新たな密約の存在も匂ってくる。
 特定秘密保護法、集団的自衛権、それらの背後に安倍政権とアメリカとの間にTPP交渉にからんだ「密約」があるのなら、それこそ、メディアは追求すべきだ。しかし、かつての西山さんのような気骨のあるジャーナリストは存在しないだろうなぁ。

 もし、密約などなく、単にアメリカ政府への「忖度」による行動であれば、それはあまりにも主権国家として情けない。

 密約でも忖度でもなく、アメリカの影をちらつかせながら、安倍晋三が大好きな戦争をしたがっているだけなら、馬鹿に刃物を持たせてはいけない。

 集団的自衛権を憲法違反と主張することなど、とても無理なところまで、日本の司法は存在意義をなくしている。
[PR]
内閣官房のサイトに、“「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」の一問一答”という、嘘と詐欺的な表現が満載の問答が載っている。そもそもお題が長すぎる。
内閣官房サイトの該当ページ

 全部で24の問答だが、問に対して、まともな答えが返されていない。

 とりあえず、前半の6つをご紹介。答えの詐欺的な部分に朱色をつけた。

【問1】 集団的自衛権とは何か?

【答】 集団的自衛権とは、国際法上、自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止することが正当化される権利です。しかし、政府としては、憲法がこのような活動の全てを許しているとは考えていません。今回の閣議決定は、あくまでも国の存立を全うし、国民の命と平和な暮らしを守るための必要最小限度の自衛の措置を認めるだけです。他国の防衛それ自体を目的とするものではありません。

【問2】 なぜ、今、集団的自衛権を容認しなければならないのか?

【答】 今回の閣議決定は、我が国を取り巻く安全保障環境がますます厳しさを増す中、我が国の存立を全うし、国民の命と平和な暮らしを守るため、すなわち我が国を防衛するために、やむを得ない自衛の措置として、必要最小限の武力の行使を認めるものです

【問3】 解釈改憲は立憲主義の否定ではないのか?

【答】 今回の閣議決定は、合理的な解釈の限界をこえるいわゆる解釈改憲ではありません。これまでの政府見解の基本的な論理の枠内における合理的なあてはめの結果であり、立憲主義に反するものではありません。
 
【問4】 なぜ憲法改正しないのか?

【答】 今回の閣議決定は、国の存立を全うし、国民の命と平和な暮らしを守るために必要最小限の自衛の措置をするという政府の憲法解釈の基本的考え方を、何ら変えるものではありません。必ずしも憲法を改正する必要はありません

【問5】 国会での議論を経ずに憲法解釈を変えるのは、国民の代表を無視するものではないか?

【答】 5月に総理が検討の方向性を示して以降、国会では延べ約70名の議員から質問があり、考え方を説明してきました。自衛隊の実際の活動については法律が決めています。閣議決定に基づき、法案を作成し、国会に十分な審議をお願いしていきます。
 
【問6】 議論が尽くされておらず、国民の理解が得られないのではないか?

【答】 この論議は第一次安倍内閣時から研究を始め、その間、7年にわたりメディア等で議論され、先の総選挙、参院選でも訴えてきたものです。5月に総理が検討の方向性を示して以降、国会では延べ約70名の議員から質問があり、説明してきました。今後も皆様の理解を頂くよう説明努力を重ねます。



 設問の1と2では、「必要最小限度」という言葉で誤魔化しているが、いったんアメリカが起こした戦争に自衛隊が巻き込まれたとして、「ここまでが日本ができる限度です」と言って彼らが戦場を去ることなど可能なのだろうか。
 いったい“どこまで”が“必要最小限度”なのか。
 放たれたミサイルは空中で止めることはできない。迎撃するしかなくなる。いったん、始めたら、日本が助っ人だろうが、途中で立ち止まったり、止めることなどできないだろう。

 後半の質問には、、国会では延べ約70名の議員から質問があり、考え方を説明してきました。という点のみが強調されている。
 70名という数字の問題ではなく、議論の深さが問題なのだ。「考え方を説明」であって、「議論」ではない。

 一個づつ取り上げていてはきりがないので、後半の四つを一つづつご紹介。

問21】 今回の閣議決定により、必要ない軋轢を生み、戦争になるのではないか?

【答】 総理や大臣が、世界を広く訪問して我が国の考え方を説明し、多くの国々から理解と支持を得ています。万が一の事態での自衛の措置を十分にしておくことで、かえって紛争も予防され、日本が戦争に巻き込まれるリスクはなくなっていきます。



 “総理や大臣が、世界を広く訪問して我が国の考え方を説明”することより、もっとも緊張感を高めているアジアの隣人への説明ができていないことが問題である。
 

【問22】 今回の閣議決定によっても、結局戦争を起こそうとする国を止められないのではないか?

【答】 日本自身が万全の備えをし、日米間の安全保障・防衛協力を強化することで、日本に対して戦争を仕掛けようとする企みをくじく力、すなわち抑止力が強化されます。閣議決定を受けた法案を、国会で審議、成立を頂くことで、日本が戦争に巻き込まれるリスクはなくなっていきます。



 “抑止力が強化”されることの行き先が原爆、水爆ではないか。抑止するのではなく、日本が戦争をしない、というメッセージがもっとも重要だ。

“閣議決定を受けた法案を、国会で審議、成立を頂くことで、日本が戦争に巻き込まれるリスク” は、一層高まる。国会議員は、これからが仕事に時間だ。

【問23】 武器輸出の緩和に続いて今回の閣議決定を行い、軍国主義へ突き進んでいるのではないか?

【答】 今回の閣議決定は戦争への道を開くものではありません。むしろ、日本の防衛のための備えを万全にすることで、日本に戦争を仕掛けようとする企みをくじく。つまり抑止力を高め、日本が戦争に巻き込まれるリスクがなくなっていくと考えます。


 
 また、抑止力。そっちもくどいが、こっちも負けない。抑止力の競争になり、「原爆を持ちたい」、というのは安倍の本音なのだろう。だからこそ、プルトニウムを持つことのできる核燃料サイクルに執着しているのだ。
 

【問24】 安倍総理はなぜこれほどまでに安全保障政策が好きなのか?

【答】 好き嫌いではありません。総理大臣は、国民の命、平和な暮らしを守るために重い責任を負います。いかなる事態にも対応できるよう、常日頃から隙のない備えをするとともに、各国と協力を深めていかなければなりません。



 安全保障製作において、 “各国と協力を深めて” いくことには賛成。問題は、何度も言うが、アジアの隣人との協力がなくして、極東の安全などは保てない。
 
 今、どうしても思うことは、日本は三権分立の国だったはずだが、司法はいったい何をしているのだろう、ということ。

 安倍政権の閣議決定は憲法違反であることを、なぜ法の番人は指摘しないのか。

 裁判官の任命権などのしがらみを捨てることのできる、心ある法の番人はいないのか!
[PR]
集団的自衛権問題に関して、久し振りに更新された「内田樹の研究室」からご紹介。
「内田樹の研究室」該当記事

『憲法の空語を充たすために』まえがき

『憲法の空語を充たすために』というリーフレットを来月出版する(かもがわ出版)。その「まえがき」をさきほど送稿したので、どういう本かご理解いただくためにここに採録。

みなさん、こんにちは。内田樹です。
このリーフレットは2014年5月3日の憲法記念日に神戸市で行われた兵庫県憲法会議主催の集会で行った講演に加筆したものです。
 この講演のあと、予想通り、安倍晋三政権は7月1日の閣議決定によって歴代政権が維持してきた「集団的自衛権は行使しない」という方針を転換し、海外派兵への道を開きました。日本の平和主義を放棄するという歴史的決断を首相個人の私的諮問機関からの答申を受けて、自公両党の与党協議による調停だけで下したのです。
国のかたちの根幹にかかわる政策の変更に立法府がまったく関与していない、つまり国民の意思が徴されないという異常な事態にもかかわらず、国民の側からはつよい拒否反応は見られません。讀賣新聞やNHKは内閣の方針に賛意をあきらかにしており、民主制を否定するような手続き上の重大な瑕疵についても強い抗議の声は聞こえてきません。
もちろん市民の側からは反対の意思表示がなされていますが、大手メディアの支援を受けた内閣が支持率40%台を維持している以上、市民の議会外からの批判が内閣の方針を動かすことは期待できないというのが現状です。


 ここまでの内容には、結構悲観的になるのだが、もちろんこのあとに内田樹ならでは表現が続く。

私は護憲の立場にあるものとして、日本の民主制と憲法の本質的脆弱性について深く考えるべきときが来ていると考えています。私たちの国の民主制と平和憲法はこれほどまでに弱いものであった。わずか二回の選挙で連立与党が立法府の機能を事実上停止させ、行政府が決定した事項を「諮問」するだけの装置に変えてしまった。
立法府が機能不全に陥り、行政府が立法府の機能を代行する状態のことを「独裁」と言います。日本はいま民主制から独裁制に移行しつつある。有権者はそれをぼんやり見ている。ぼんやり見ているどころか、それを「好ましいことだ」と思っている人間が国民の半数近くに上っている。
独裁によって受益する見込みがある人たち(与党政治家、官僚、財界人)がこれを歓迎することは理解できます。でも、独裁によって受益する可能性がまったく見込めない有権者たちがそれでもなお独裁を歓迎するのはどのような根拠によるのか。ワイマール共和国の末期、ヒトラーへの全権委任についての国民投票では89.9%が賛成票を投じました。第三共和政の末期、フランスの国民議会議員の85%はペタン元帥への全権委任に賛成票を投じました。なぜ、ドイツやフランスの市民たちは自国を近い将来破滅に導く指導者にこれほどの権限を気前よく委譲したのか。これは久しく「歴史の問題」でした。歴史の専門家が考えればいいことであって、一般市民とはかかわりのないこと、遠いよその国でおきた「不可解な事件」でした。でも、今は違います。このまま進めば、いずれどこかの国の歴史の教科書に「このとき日本の有権者は国民の基本的人権を制約し、70年守ってきた平和主義を放棄しようとする政治勢力の独裁をなすところもなく傍観し、それどころか半数近くの国民はそれを歓迎したのである」と書かれることになるかもしれない。


“立法府が機能不全に陥り、行政府が立法府の機能を代行する状態のことを「独裁」と言います。日本はいま民主制から独裁制に移行しつつある。有権者はそれをぼんやり見ている。ぼんやり見ているどころか、それを「好ましいことだ」と思っている人間が国民の半数近くに上っている”という状態をいったいどう考えたらいいのだろう。

 内田が言うように、“いずれどこかの国の歴史の教科書に「このとき日本の有権者は国民の基本的人権を制約し、70年守ってきた平和主義を放棄しようとする政治勢力の独裁をなすところもなく傍観し、それどころか半数近くの国民はそれを歓迎したのである」と書かれる”ことは、とても望むところではない。

 内田は、日本国民の危機感のなさに、ある仮説を立てる。

どうしてこれほど危機感が希薄なのか。それは国民のほとんどが「株式会社のサラリーマン」のものの見方を深く内面化してしまったせいだと私は思っています。なぜサラリーマンは独裁に違和感を持たないのか。その問いの答えは、株式会社の従業員たちが日頃慣れ親しみ、ついに骨の髄までしみ込んだ「有限責任」感覚のうちに求めることができるのではないか、というのが私のここでの仮説です。


 
 サラリーマン根性が染みついた有限責任感覚、なるほどそれも言えるかもしれない。

 株式会社日本の安倍社長・・・か。嫌な会社だ。
 政治家が雇われ社長や雇われマダムみたいな存在であるということは、選ぶ国民もそれだけ堕落したという批判に、なかなか抗しがたいのも事実・・・・・・。

 まえがきだけでは、これ以上のことは書けないので、このリーフレットを読んでから、感想などを書きたいと思う。
[PR]