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幸兵衛の小言

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「Nature」9月3日の記事を、安倍首相は読んでいないだろうから、ぜひ「内田樹の研究室」にある内田自らの訳を読んでもらいたい。まぁ、読まないだろうけど・・・・・・。

 内田は、この前の記事で「AERA」に書いた五輪招致反対の持論を再掲載していた。しかし、東京開催は決まった。安倍首相は、世界に向かって大嘘をついた。IOCのメンバーはどこまで真相を知っているのか分からないが、海外の科学者は、危険な実態をしっかり把握している。

「内田樹の研究室」の9月6日の記事

9月3日のNature のEditorialに福島原発からの汚染水漏洩への日本政府および東電の対応について、つよい不信感を表明する編集委員からのコメントが掲載された。
自然科学のジャーナルが一国の政府の政策についてここまできびしい言葉を連ねるのは例外的なことである。
東電と安倍政府がどれほど国際社会から信頼されていないか、私たちは知らされていない。
この『ネイチャー』の記事もこれまでの海外メディアの原発報道同様、日本のマスメディアからはほぼ組織的に無視されている。
 (中 略)
海外の科学者たちが「福島の事故は対岸の火事ではない。私たち自身に切迫した問題だ」という危機意識を持って国際的な支援を申し出ているときに、東京の人間が「福島の事故は250キロ離れた『対岸の火事』ですから、五輪開催に心配ありません」と言い放っているのである。
怒りを通り越して、悲しみを感じる。

英語を読むのが面倒という読者のために『ネイチャー』の記事の抄訳を試みた。

破壊された福島の原子力発電所から漏洩している放射性物質を含んだ流出水は、1986年ウクライナでのチェルノブイリ・メルトダウン以後世界最大の原子力事故の終わりがまだ見通せないことをはっきりと思い出させた。
2011年3月に福島原発に被害を与えた地震と津波の後、この地域を除染するための努力は今後長期にわたるものとなり、技術的にも困難であり、かつとほうもない費用を要するものであることが明らかとなった。
そして今またこの仕事が原発のオーナー、東京電力にはもう担いきれないものであることがあらわになったのである。
日本政府は9月3日、東電から除染作業を引き継ぐ意向を示したが、介入は遅きに失した。
事故から2年半、東電は福島の三基の破壊された原子炉内の核燃料の保護措置についての問題の本質と深刻さを認識していないことを繰り返し露呈してきた。
毎日およそ40万リットルの水がロッドの過熱を防ぐために原子炉心に注水されている。汚染された水が原子炉基礎部に漏水し、コンクリートの裂け目を通じて地下水と近隣の海水に拡がっていることを東電が認めたのはごく最近になってからである。
東電以外の機関による放射能被曝の測定は難しく、私たちが懸念するのは、この放射能洩れが人間の健康、環境および食物の安全性にどのような影響をもたらすことになるのかが不明だということである。
問題はそれにとどまらない。使用済みの冷却水を保存している1000の貯蔵庫があり、これらは浄化システムによる処理を経ているにもかかわらずトリチウムやその他の有害な放射性核種を含んでいる。漏洩はこのシステムがいつ爆発するかわからない時限爆弾(laxly guarded time bomb)だということを明らかにした。



肝腎な部分を太字で再確認。
“事故から2年半、東電は福島の三基の破壊された原子炉内の核燃料の保護措置についての問題の本質と深刻さを認識していないことを繰り返し露呈してきた。
 毎日およそ40万リットルの水がロッドの過熱を防ぐために原子炉心に注水されている。汚染された水が原子炉基礎部に漏水し、コンクリートの裂け目を通じて地下水と近隣の海水に拡がっていることを東電が認めたのはごく最近になってからである。
 東電以外の機関による放射能被曝の測定は難しく、私たちが懸念するのは、この放射能洩れが人間の健康、環境および食物の安全性にどのような影響をもたらすことになるのかが不明だということである”

 
 政府は東電に責任をかぶせようとするだろうが、原発を推進したのも、フクシマを起こしたのも、そして事故後の対応における無為無策についても、政権与党が変わっていようが、政府の責任は免れない。特に、自民党は、原発予算をなし崩しに通した中曽根から続く犯罪に近い過去の歴史を背景としている。

 すでに漏れていることに加え、毎日大量の放射能汚染水が作られている、という現実・・・・・・。

 8月22日のブログで掲載した「日刊ゲンダイ」(Gendai.Net)の記事を再度引用したい。
「Gendai.Net」の該当記事

福島第1原発 汚染水タンク350個が全滅危機
【政治・経済】2013年8月21日 掲載

東電の安普請・ドロナワ作業で最悪事態

「Nature」で明らかにされている安倍の大嘘—「内田樹の研究室」より。_e0337865_16395982.jpg

東京電力提供

 どうしたらこうなるのか。東京電力は福島第1原発のタンクから漏れた放射能汚染水の量を当初「少なくとも120リットル」と推定していたのに、20日になって「300トンに達する」と変更した。一気に2500倍に増えたことに絶句だが、汚染水の漏出量はこんなものでは済まない。

 東電はダダ漏れになっていた地下貯水槽の汚染水を、6月上旬までに地上タンクに移し替えた。タンクは直径12メートル、高さ11メートルの円柱状で、容量は約1000トン。漏れた300トンは大体、25メートルプール1つ分だ。

 実はこのタンクは当初から“ヤバイ”と指摘されていた。部材を溶接ではなく、ボルトでつないで組み立てる構造のため、ボルトが緩んだり、止水用パッキンが劣化すると、汚染水が漏洩するんじゃないかと懸念されていたのだ。

「過去に4回、タンクから汚染水漏れが起きていて、いずれもつなぎ目部分から見つかっています。今回はまだどこから漏れたか分かりませんが、恐らく、つなぎ目に原因があるのでしょう」(ジャーナリスト・横田一氏)

 東電によると、パッキンの耐用年数は5年ほど。交換するにはタンクそのものを解体しなければならないが、漏洩が見つかるたびに解体するのは非現実的だ。外側から止水材を塗るなど、その場しのぎの対応に追われることになりそうだ。

 問題はボルトとパッキンだけではない。タンクが“鋼鉄製”なのも大きな懸念材料という。日本環境学会顧問・元会長で元大阪市立大学大学院教授(環境政策論)の畑明郎氏が言う。

「汚染水は原子炉冷却に使われた水で、当初の海水冷却により塩分を含むものです。鋼鉄製のタンクは錆びやすく、腐食して穴が開き、漏れた可能性があります。安全性を考えるのであれば、東電は鋼鉄製ではなくステンレス製のタンクにすべきでした」

<錆びて腐食、止水用パッキンの寿命はたった5年>

 東電がそうしなかったのは、鋼鉄製の方がコストがかからないからだ。さらに言うと、溶接型ではなくボルト型にしたのも、短時間で増設できるから。いかにも東電らしいドロナワ対応といえるが、このボルト式の同型のタンクは敷地内に350個もある。もし、今回と同じ300トンの汚染水がすべてのタンクから漏れ始めたら、10万トンではきかない計算になるから、考えるだけでもゾッとする。

 しかも、汚染水は1日400トンのペースで増え続けていて、東電は現在貯蔵可能な約39万トン分のタンクの容量を2016年度までに80万トン分まで増やす計画だ。
 一方で安普請のタンクからの汚染水漏れの手当ても同時にやらなければならない。

 今回の汚染水からは、法令で放出が認められる基準(1リットルあたり30ベクレル)の数百万倍に達する8000万ベクレルの放射性ストロンチウムが検出された。300トン分で約24兆ベクレルである。

 はっきり言って東電は終わっている。



太字で再度。
“鋼鉄製の方がコストがかからないからだ。さらに言うと、溶接型ではなくボルト型にしたのも、短時間で増設できるから。いかにも東電らしいドロナワ対応といえるが、このボルト式の同型のタンクは敷地内に350個もある。もし、今回と同じ300トンの汚染水がすべてのタンクから漏れ始めたら、10万トンではきかない計算になるから、考えるだけでもゾッとする”

 東電の怠慢による現状の“欠陥タンク”を、本来のステンレス製で溶接するタイプの頑丈なタンクに替えて、“欠陥タンク”の汚染水を移し替えるのに、どれだけの費用と時間と困難が伴うのか、私にはわからない。

 しかし、オリンピックのためにこれからも投じられるだろう国家予算を上回るとは思えない。

 たしかに政府がこの重要問題に対処するのは遅きに失したかもしれない。しかし、今すぐ取りかからなければ、“欠陥”タンクから放射能にまみれた水が、どんどんこぼれるばかりだろう。

 みちろん、地下をどうするかも重大かつ緊急課題だ。

 世界の英知を集中させて、解決とりかからないのなら、七年後の日本は、オリンピックどころではなくなるだろう。

再度、「内田樹の研究室」の該当記事から引用。

漏水は当初ただの「異常」とされたが、のちに真性の危機(a genuine crisis)であることがわかったのである。
日本は国際的な専門家に支援のための助言を求めるべきときを迎えている。米国、ロシア、フランス、英国などは核エンジニアリング、除染および放射線の健康被害についてのノウハウを持っており、日本の役に立つはずである。
国際的な研究と除染のための連携はモニタリングと危機管理の有用性と有効性についての粉々に打ち砕かれた信頼(shattered public trust)を回復するための一助となるであろう。
漏水が最も大きな影響を及ぼすのは福島沖とそこから拡がる太平洋への影響である。この影響については精密なモニターがなされなければならない。
日米の科学者によって2010年と2011年に行われたアセスメントでは二つの重大な問題が答えられぬまま残った。どれだけの放射能が海洋に浸入しているのか?原発事故以後長い時間が経ったにも拘わらずいくつかの種において高いレベルの放射能が検知されているわけだが、問題の地域の魚介類の消費がいつ可能になるのか?漏水によって、これらの問いへの答えることが喫緊の課題となっている。


 
 「異常」ではなく、「真性の危機」(a genuine crisis)、という言葉には、「他の大部分が正常で、一部が異常」ということではなく、「大部分が問題あり」ということだ。

 オリンピック招致を喜ばない国民が「異常」な状況が、「大部分の国民が喜ばない」ことに変わるのは、案外そう先のことではないかもしれない。

 海産物資源や飲料水が危険にさらされ、住んでいる環境が放射能に日々汚染されていった場合、果たして、国をあげて「お祭り」などをする気持ちになれるのか。生活の基盤を脅かされて、「世界大運動会」などを楽しむ心の余裕など生まれるはずがないのではなかろうか。

 日本のイデオロギーを表現する言葉に「空気」がある。KYは「空気を読めない」という意味なのはご存知の通りだが、このままでは生きるための「空気」も「水」も放射能まみれになりかねない。

 政府は、原子力ムラを再組織化し、御用学者たちを動員して、再び「安全神話」を浸透させようとするのだろう。そして、「8.15」や「3.11」に至ったのと同じ、「空気」に支配され、何ら長期的展望も持たず、誰も責任をとるつもりのない「ニッポン・イデオロギー」(笠井潔の言葉より)で、新たに悲劇的な「○.○○」を迎えようとしている。

 あえて『論語』から、「過ちては改むるに憚ること勿れ」という言葉を記しておこう。アメリカの属国となる前に、日本人は中国の古典から数多くのことを学んだ。日清、日露戦争の指導者の座右には、四書五経があった。

 都市化をどんどん進め「地縁」「血縁」を積極的に崩壊させ、アメリカの核の傘の下で呑気に平和を享受して、迎えた「3.11」。

 フクシマの放射能問題解決の方向性は、「元の自然環境に戻す」ことであって、昨日より今日、今日より明日、という近代化のための右肩上がり的な進歩を目指すのとは、大きく違ったものである。あえて言うならば「古き良き時代」を取り戻す行為である。それは、しょうがないのだ。汚してしまったのだから。

 いっそ、汚してしまった日本人の精神も、取り戻せないものか。その学ぶべき相手は太平洋の向こうではなく、すぐ近くのアジアにいるように思う。
# by koubeinokogoto | 2013-09-11 00:21 | 原発はいらない | Comments(2)
以前にも引用した4月13日付けの日経の記事を再度ご紹介。珍しく画像もJPEG形式でペーストできたので、日米合意をまとめた表も含めて引用。
*この記事は会員登録(無料)をしないと全文を読めません。
日経サイトの該当記事

TPP日米合意 本交渉へ見えた課題
2013/4/13 2:14

 日本の環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加に向けた日米の事前協議がようやく決着した。しかし目立つのはコメなど農産品を守ろうとするあまり、譲歩を重ねた日本の姿だ。TPP交渉と並行して続ける日米交渉では米国が長年訴え続けてきた自動車や保険の市場開放要求が再び突きつけられた。結果次第ではTPP交渉参加への高い代償を払わされることにもなりかねない。

 「農業を守るために自動車のカードを切った。一切の譲歩はしていない」。外務省幹部らは12日午後、自民党幹部にこう説明して回った。日米合意では「農産品など貿易上のセンシティビティ(強い関心事項)が両国にある」と確認。日本は農産品関税、米国は自動車関税を互いに維持できるようにすることで折り合ったという理屈だ。

高い「入場料」を払わないためにも、TPPには参加すべきではない!_e0337865_16401962.jpg


「農業を守るために自動車のカードを切った。一切の譲歩はしていない」、と外務省幹部は言っているようだが、自動車における屈辱的ともいえる事前合意も、このままでは決して農業を守る“カード”にはならないだろう。

 日本の自動車業界は、「農業を守る」ために犠牲になってでもTPP参加に賛成なのだろうか・・・・・・。

 「食の安全」についての危惧について、日経の記事も次のように締めている。

 自動車と並んで日米交渉の焦点となる「非関税措置」ではかんぽ生命保険の新商品凍結や「食の安全」に関して日本に食品添加物や残留農薬の認可範囲を広げるように求めている。日本が認める食品添加物は約800種類。米国は3000種類ある。添加物の規制が緩和されれば米国の輸出増につながるとみている。

 食品の安全面からTPP参加に反対する生活協同組合では「一部の農薬では日本の方が米国などより残留基準が厳格なものもあり、海外の低い食品安全基準にあわせることになりかねない」(首都圏の生協関係者)と危惧している。


 太字で強調。
 “日本が認める食品添加物は約800種類。米国は3000種類ある。添加物の規制が緩和されれば米国の輸出増につながる”ことや、生協関係者が指摘する通り、「一部の農薬では日本の方が米国などより残留基準が厳格なものもあり、海外の低い食品安全基準にあわせることになりかねない」ことを考えると、TPPがアメリカによる日本の「食」の侵略であり、「攻撃」であることが明白だ。

 この記事にも、多くの欺瞞が隠されている。「継続協議」や「検討」などの言葉は、実はすでに協議の余地がないものも含まれていそうだ。そもそも日経は一貫してTPP賛成の経団連をバックに控えたメディアである。控えめな内容だが、少しはリスクを書いておこう、という意図があるような印象だ。

 日経の記事が、真実を伝えていないのは、後でアメリカ側の発表内容を見れば明らかになる。

 モンサントなどに金で踊らされているオバマのアメリカは、決して「食」における日本侵略をあきらめない。実は、すでに高い「入場料」を払うことは決まっているはずだ。それにしても、高い「入場料」を払うことになったものだ。

高い「入場料」を払わないためにも、TPPには参加すべきではない!_e0337865_16402057.jpg

鈴木宣弘著『食の戦争』
 
 鈴木宣弘著『食の戦争』から、日本が払うことになった「入場料」に関する部分を引用。

 2013年4月12日の日米のTPP事前協議によって、自動車、保険、牛肉などの「その他の非関税障壁」(関税以外の方法で、輸入製品でかける足かせ)についての規制緩和などアメリカの要求する「入場料」にとどまらず、アメリカ議会の90日の承認手続の間に、さらに追加的な譲歩がなければ日本の参加を認めないと脅された。さらには、日本の交渉参加後も、TPP本体の条文とは別に、並行してTPP交渉の終了時までに残る「支払い不足分」、つまり食品添加物や農薬といった食の安全基準を緩和するなどの「非関税障壁の撤廃」についてもアメリカの要求に応じることを明文化して確約させられたのである。



 著者鈴木宣弘の指摘と、日経の記事にある内容に、相当ギャップがある印象を持たれる方は多いだろう。

 それはそうだ。実は事前協議の合意内容について、政府は国民に真っ赤なウソをついている。

 かつて農林水産大臣を務めた山田正彦元衆議院議員の4月15日のブログに、USTR(アメリカ合衆国通商代表部)の発表内容の和訳があるので引用したい。ちなみに山田氏は、この事前協議の合意を「ミズーリ艦上の降伏文書」にたとえている。
「山田正彦ウィークリーブログ」の2013年4月のページ


内閣官房の書簡はたった1ページで抽象的な言葉で終わっていますが、私の親友・首藤信彦氏(外交評論家・前衆議院議員)が徹夜で仮翻訳した文章を送っていただいて、更に驚きました。その内容をこの後に掲載していますので皆さんにも是非、読んでいただきたいと思います。
併せて政府が発表している佐々江賢一郎さんの米国に対する、米国務省への書簡。更に米国通商代表代行マランチェスの日本政府に…対する書簡も添付しますので、是非、比較してお読みください。

以下、首藤信彦氏の仮翻訳文書。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
USTR 2013.4.12
TPPへ向けて:日本との協議事項報告 <仮訳>

アメリカ政府はTPPに参加したいという日本との公式二国間協議を2012年2月に開始しました。これは日本のTPP参加国との協議を始めたいという2011年11月の表明にもとづくものです。
日本との協議は、自動車や保険セクターおよび他の非関税障壁に関する二国間の幅広い関心事をカバーし、TPPが求める高い基準を日本が満たす用意があるかどうかという点に関する議論も含まれています。
今日、アメリカ政府は日本との間に、強固な実施行動のパッケージおよび諸合意が成立したこと、そしてアメリカ政府が一連の協議を成功裏に完結したことを報告申し上げます。

自動車
アメリカ政府は、自動車部門に関する深刻かつ積年の関心事を明確にしました。日本政府はアメリカとの協議において、日本車の輸入関税はTPP交渉の他のいかなる製品に猶予された最長期間よりもさらに遅い時期において段階的に廃止されることに合意した。しかも、この段階的廃止は猶予期間が終了した後にのみ実行されることも日本政府は合意した。さらに、これらの措置は米韓FTAで韓国に認められた関税廃止措置よりもはるかに遅れることも日本政府は合意した。

4月12日に日本政府は、簡易許可手続き(PHP)すなわち日本に輸出される米国車に対してより簡単で時間のかからない認証方法での輸入台数を二倍以上にすることを一方的に決定して通告してきました。最近の例でいえば、車種ごとに年2000台まで認められている簡易輸入手続きを、今度は車種ごとに年5000台までアメリカ自動車メーカーは日本に輸出する際には認められることになります。

アメリカ政府と日本政府は日本の自動車産業分野に存在する広範な非関税障壁(NTM)を、TPP交渉と並行して行われる二国間協議の俎上に載せることを合意しました。そのテーマの中には諸規制の透明性、諸基準、証明書、省エネ・新技術車そして流通などの問題が含まれる。さらに、特定車両に対するセーフガード条項を協議し、係争事例の法的救済として関税再課税(snapback tariffs)などのメカニズムも協議することを日米政府は合意した。協議でどれだけの範囲のイシューを協議するかは添付されたTOR(内閣官房資料3)に書かれている。そしてその協議の結果はTPP交渉におけるアメリカと日本の二国間における最終二国間市場アクセス包括協定における強制的約束として含まれるものである。

保険
近年、アメリカ政府はアメリカの保険会社が日本郵政の保険との関係において、日本の保険市場で平等な基準で取り扱われていないことを強調してきた。今回の協議において、TPP協議へ向けて平行して行われる交渉と同時に、このTPP交渉における平等な取扱いの問題を取り上げることに合意した。さらに、日本政府は、4月12日に一方的に以下のことを通告してきた。その内容は、日本郵政の保険に関しては、民間の保険会社に日本郵政と平等な競争条件が確保され、また日本郵政の保険が適切なビジネス経営(非公営)の下で運営されていると日本政府が決定するまでは、いかなる新規のあるいは修正されたがん保険及び単独の医療保険を許可しない、ということである。

非関税障壁(NTM)
アメリカ政府はアメリカ製品の日本への輸出を妨げている広範な産業分野および産業横断的な非関税障壁に対する懸念を表明してきた。これらの問題がTPP交渉においてはまだ十分に討議されていない以上、それらは二国間で、TPP協議と並行して、討議され、TPP交渉終了までに完結させなければならない。(これに関しては別添fact sheetで問題の実情を含め詳細に説明されている)

日本は高い基準での協定受け入れを表明
我々二国間の協議を通してアメリカ政府は、日本がTPP交渉に参加したいなら、現在の参加国である11か国によってすでに交渉された高い基準での協定を受け入れを保証せよと強く強調してきた。それに対し、また2月22日の共同声明に記載されているとおり、日本政府は、すべての産品を交渉のテーブルに乗せ、そのうえで2011年11月12日にTPP参加国によって表明されたTPP協約に明記された包括的で高い基準の協定を達成するために、交渉に参加することを言明した。

強固な関係の成長
もし日本がTPP交渉に参加するなら、その参加はアメリカの最大の貿易パートナーである国の参加であり、TPP協定の経済力を高める。日本は現在、アメリカの第4位の貿易パートナーである。2012年にアメリカは700億ドルの産品を日本に輸出し、サービス分野は2011年に440億ドルに達した。TPPに日本が参加することは、アジア太平洋地域FTA(FTAAP)への道筋を進めると同時に、競争力のあるアメリカで生産された製品とサービスに対する日本市場のさらなる開放を意味する。そのことは同時にアメリカ国内の雇用を支えるのだ。TPPに日本が参加したことにより、TPP参加国全体では世界のGDPの40%近く、そして世界貿易の三分の一を占めることになるのだ。    
以上
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【駐米日本大使発書簡】



 一方、「官邸」サイトに掲載されている、日本側の発表内容がこれ。
「官邸」サイト掲載の該当PDF

日米協議の合意の概要
平成25 年4 月12 日
内閣官房TPP 政府対策本部

1 日本が他の交渉参加国とともに,「TPP の輪郭」において示された包括的で高い水準の協定を達成していくことを確認するとともに,日米両国が経済成長促進,二国間貿易拡大,及び法の支配を更に強化するため,共に取り組んでいくこととなった。

2 この目的のため,日米間でTPP 交渉と並行して非関税措置に取り組むことを決定。
 対象分野:保険,透明性/貿易円滑化,投資,規格・基準,衛生植物検疫措置1 等

3 また,米国が長期にわたり懸念を継続して表明してきた自動車分野の貿易に関し,
(1)TPP 交渉と並行して自動車貿易に関する交渉を行うことを決定。
   対象事項:透明性,流通,基準,環境対応車/新技術搭載車,財政上の
   インセンティブ 等
(2)TPP の市場アクセス交渉を行う中で,米国の自動車関税がTPP 交渉における最も長い段階的な引下げ期間によって撤廃され,かつ,最大限に後ろ倒しされること,及び,この扱いは米韓FTA における米国の自動車関税の取り扱いを実質的に上回るものとなることを確認。

4 日本には一定の農産品,米国には一定の工業製品といった二国間貿易上のセンシティビティが両国にあることを認識しつつ,TPP におけるルール作り及び市場アクセス交渉において緊密に共に取り組むことで一致。 以上



 違いは一目瞭然だ。

 たとえば「非関税障壁」について、まずUSTR側は、こう書かれている。
非関税障壁(NTM)
アメリカ政府はアメリカ製品の日本への輸出を妨げている広範な産業分野および産業横断的な非関税障壁に対する懸念を表明してきた。これらの問題がTPP交渉においてはまだ十分に討議されていない以上、それらは二国間で、TPP協議と並行して、討議され、TPP交渉終了までに完結させなければならない。(これに関しては別添fact sheetで問題の実情を含め詳細に説明されている)


 日本側の発表内容。
日米間でTPP 交渉と並行して非関税措置に取り組むことを決定。
 対象分野:保険,透明性/貿易円滑化,投資,規格・基準,衛生植物検疫措置1 等


 「保険」の項目についてなど、日本側はほとんどふれていない。

 アメリカは、次のように言っている。

日本は高い基準での協定受け入れを表明
我々二国間の協議を通してアメリカ政府は、日本がTPP交渉に参加したいなら、現在の参加国である11か国によってすでに交渉された高い基準での協定を受け入れを保証せよと強く強調してきた。それに対し、また2月22日の共同声明に記載されているとおり、日本政府は、すべての産品を交渉のテーブルに乗せ、そのうえで2011年11月12日にTPP参加国によって表明されたTPP協約に明記された包括的で高い基準の協定を達成するために、交渉に参加することを言明した。



 まったく違う協議のことを言っているのではないか、と思わせるギャップ。

 事前協議に関するアメリカ(USTR)の言い分が正しいとしたら(たぶん正しいだろう)、日本の政府は、確信犯的に合意内容を隠している。「概要」という言葉に、すでに欺瞞の匂いがプンプンしている。早い話が、これは国民に対する“詐欺”である。ほとんど屈辱的な「入場料」支払いを約束させられているのだ。

TPPにおけるアメリカの布陣は強力だ。『食の戦争』から引用する。

 アメリカのTPPの主席農業交渉官はモンサント社の前ロビイストであるイスラム・シディーク氏であると報じられている(久野秀二京大教授)。そして、そもそも、すでにアメリカからの要求で数々の基準緩和をしてきているのだから、TPPでその傾向に歯止めがかかるわけがなく、むしろ加速して「とどめを刺す」のがTPPだという本質を忘れてはならない。



 TPPという集合住宅のような“建物”は、すでに「入居」する段階で大家でもない住人の一人のアメリカから高い「礼金」「敷金」を取られているようなものだ。そして、すでに入居した住人同士の「自治会会則」が決められた後で日本は入ろうとしている。

 しかし、ブルネイでは「先住」メンバーに対し、既決の会則を日本は変えることはできなかった。 
「東京新聞」サイトの該当記事

 農業問題について言えば、アメリカの一部の企業の利益のために日本人が危険な食品を食べることを、安倍政権と外務省などの官僚が進めようとしている。こんなことが許されていいのか。

 ここは逆転の発想が必要ではないか。
 
 交渉が長引くことは、まだTPP参加撤回のチャンスがあるということだろう。メディアや国民がしっかり「TPP反対」を叫び、「入場料」(「「敷金」「礼金」)支払いも含めてTPP参加を撤回し、本来優先すべきアジア隣人との関係強化にシフトすべきだと思うが・・・マスメディアは何も言わない。
# by koubeinokogoto | 2013-09-06 00:55 | TPP反対 | Comments(2)
アメリカの予想通りの行動で、TPP交渉が長引くことになるとメディアはほとんどこの話題を取り上げなくなった。今こそ、TPPの問題点をしっかり伝えるべきなのだが、安倍の尻馬に乗ってフクシマの放射能汚染水問題などを、今になって記事にする体たらく。五輪東京招致のためのプロパガンダでしかない。
 
 汚染水問題は、もっと以前から五輪などと関係なく指摘すべき大問題である。逆に、こんな状況で五輪を招こうとすること自体を、ジャーナリズムというものがまだ日本にあるのなら、問題とすべきではないか。

 さて、TPPに関して、非常に良い書がある。

スイスの少女は一個80円の卵を喜んで買う—鈴木宣弘『食の戦争』より。_e0337865_16402057.jpg

鈴木宣弘著『食の戦争』
 TPPに関する書籍は結構出ているが、この本は非常に結構。副題は「米国の罠に落ちる日本」。文春新書から、8月21日初版発行。
 
 著者の鈴木宣弘は、1958年生れで元農林水産省でFTA交渉にも携わってきた方。現在は東大大学院農学国際専攻教授で農業経済学を専門とする。本書の内容は、現在の世界の「食」が、いかにアメリカのエゴによってとんでもない状況になっているかが中心となっている。TPPについても、専門家としてデータの裏付けなども含め明確に問題点をあぶり出している。

TPPの本質—「1%の1%による1%のための」協定
 そもそも、TPPとは何か。
 その前身は、2006年にできたシンガポール、ニュージーランド、ブルネイ、チリによるP4協定であるが、それをアメリカの多国籍企業が「ハイジャック」したという表現がわかりやすいだろう。当初は比較的小さな国々が関税撤廃しルールの統一を図って、経済圏を一国のようにすることで国際的な交渉力を高めようとする意図があった。しかし、アメリカの大企業は、格差社会に抗議するデモが世界的に広がり、規制緩和を徹底して自らの利益を拡大する方法がとりにくくなってきたのを打開するために、時代の流れに逆行し、TPPによって無法ルール地帯を世界に広げることで儲けようと考えた。


 なかなか歯切れが良い。こういった論調は、現在のマスメディアではまったく見ることができない。この後にこう続く。

 ノーベル経済学賞学者ののスティグリッツ教授の言葉を借りれば、TPPとは人口の1%ながらアメリカの富の40%を握る多国籍な巨大企業中心の、「1%の1%による1%のための」協定であり、大多数を不幸にする。
 たとえ99%の人々が損失を被っても、「1%」の人々の富の増加によって総計としての富が増加すれば効率的だという、乱暴な論理である。TPPの条文を見られるのはアメリカでも通商代表部と600社の企業顧問に限られ、国会議員も十分にアクセスできないことが、その実態を如実に物語っている。



 それでは、その「1%」の代表的企業、モンサントについて。

 強力な農薬(除草剤)「ラウンドアップ」を販売するこの会社は、この農薬に耐性のある食物の種子を遺伝子組換え(GM:Genetically Modified organismの略)で作っている。

 要するに、「この種子を使えば、ラウンドアップを使っても、雑草がなくなってもジャガイモやトウモロコシは、しっかり育ちます」という理屈で、農薬と遺伝子組換え種子を世界中で売っている会社だ。

 他にも悪名高い人工甘味料「アスパルテーム」も買収を経て現在はモンサントの製品。量産化に成功した味の素の「パルスイート」も同じ組成の危険な甘味料であることを知っている人は、意外に少ない。マイケル・J・フォックスやヒラリー・クリントンは、アスパルテームの入ったダイエット飲料(「ダイエット○○○」というやつ)を日常的に飲んでいたことが、パーキンソン病や視力低下の原因であるという指摘があることを、子供にファストフードのハンバーガーやダイエット飲料を飲ませている母親は、もっと知るべきだろう。


 今回は、遺伝子組み換えトウモロコシの話題。『食の戦争』でもマウスの写真入りで紹介しているのが、AFPによる次のニュースである。
 よって、このニュースには癌になったマウスの写真が掲載されているので、ご留意ください。
AFP BB Newsサイトの該当記事

GMトウモロコシと発がん性に関連、マウス実験 仏政府が調査要請
2012年09月21日 12:10 発信地:パリ/フランス

【9月21日 AFP】フランス政府は19日、遺伝子組み換え(GM)トウモロコシと発がんの関連性がマウス実験で示されたとして、保健衛生当局に調査を要請した。欧州連合(EU)圏内での遺伝子組み換えトウモロコシ取引が一時的に停止される可能性も出ている。

 農業、エコロジー、保健の各担当大臣らは、フランス食品環境労働衛生安全庁(ANSES)に対して、マウス実験で示された結果について調査するよう要請したと発表した。3大臣は共同声明で「ANSESの見解によっては該当するトウモロコシの欧州への輸入の緊急停止をも含め、人間および動物の健康を守るために必要なあらゆる措置をとるよう、仏政府からEU当局に要請する」と述べた。

 仏ノルマンディー(Normandy)にあるカーン大学(University of Caen)の研究チームが行ったマウス実験の結果、問題があると指摘されたのは米アグリビジネス大手モンサント(Monsanto)製の遺伝子組み換えトウモロコシ「NK603」系統。同社の除草剤「ラウンドアップ」に対する耐性を持たせるために遺伝子が操作されている。

 仏専門誌「Food and Chemical Toxicology(食品と化学毒性の意)」で発表された論文によると、マウス200匹を用いて行われた実験で、トウモロコシ「NK603」を食べる、もしくは除草剤「ラウンドアップ」と接触したマウスのグループに腫瘍を確認した。2年間(通常のマウスの寿命に相当)という期間にわたって行われた実験は今回がはじめてという。

 がんの発生はメスに多く確認された。開始から14か月目、非GMのエサが与えられ、またラウンドアップ非接触のマウス(対照群)では確認されなかったがんの発生が、一方の実験群のメスのマウスでは10~30%で確認された。さらに24か月目では、対照群でのがん発生率は30%にとどまっていたのに対し、実験群のメスでは50~80%と高い発生率となった。また実験群のメスでは早死も多かった。

 一方オスでは、肝臓や皮膚に腫瘍(しゅよう)が発生し、また消化管での異常もみられた。研究を率いた同大のジル・エリック・セラリーニ(Gilles-Eric Seralini)氏は「GM作物と除草剤による健康への長期的な影響が初めて、しかも政府や業界の調査よりも徹底的に調査された。この結果は警戒すべきものだ」と述べている。

 取材に対し、モンサントの仏法人は「このたびの研究結果について現時点ではコメントはできない」と答えた。

 欧州食品安全機関(European Food Safety Agency、EFSA)所属のGM作物に関する委員会は2009年、90日間のマウス実験に基づき、「NK603」は「従来のトウモロコシと同様に安全」との判断を下した。現在、欧州への輸出は可能となっているが、域内での栽培は禁止されている。(c)AFP



 TPPによって、モンサントから多額の選挙資金を得ているオバマに率いられたアメリカは、現在でも十分とは言えない日本の「遺伝子組換え」の表示義務を、「非関税障壁」としてやめるように要求している。

『食の戦争』から引用。

 消費者が不安を持つのはやむを得ないというデータが出ている中で、せめて表示義務を課すことによって、選ぶ権利だけは与えてほしいというのは当然のように思われるが、アメリカはTPP交渉をテコに、遺伝子組換え食品の表示を許さない方針を世界に広げようとしている。



 とんでもないことである。『食の戦争』のことは、今後も紹介したい。

 「ラウンドアップ」に耐性を有する遺伝子組み換え作物は「ラウンドアップレディー (Roundup Ready) 」と称されており、ダイズ、トウモロコシ、ナタネ、ワタ、テンサイ、アルファルファなどが栽培されている。

 私は、この本で紹介されている少女こそが、“レディ”だと思う。

 スイスで小学生ぐらいの女の子が一個80円もする国産の卵を買っていたので、なぜ輸入品よりはるかに高い卵を買うのかと聞いた人がいた。すると、その子は「これを買うことで、農家の皆さんの生活が支えられる。そのおかげで私たちの生活が成り立つのだから当り前でしょ」と、いとも簡単に答えたという(NHKの倉石久壽氏談)。



 このエピソードは、農業問題のみならず、非常に多くの日本の社会問題を想起させる。

 「安い」という言葉に替わって、「安全」「健康」「自然との共生」「動物愛護」などの言葉が生活の基底に流れるようにすることが、実はデフレ脱却で本来目指すものではなかろうか。
# by koubeinokogoto | 2013-09-04 19:20 | TPP反対 | Comments(2)
タイトルが駄洒落のようで申し訳ないが、決してふざけているわけではない。

 大震災とフクシマからの復興のために仕事をしない政治家や官僚が、オリンピック招致などで浮かれている場合ではないのだ。

 東京新聞から引用。「東京新聞」サイトの該当記事

原発事故避難者ら 支援いつまで待てば… 「新法放置」国を提訴
2013年8月23日 朝刊

 東京電力福島第一原発事故を受けた「原発事故子ども・被災者支援法」の成立から一年以上たつのに、国が基本方針を策定しないのは違法だとして、福島県などの住民や自主避難者計十九人が二十二日、国を相手取り、基本方針の早期策定などを求めて東京地裁に提訴した。 

 原告は、放射線量が国の避難指示区域(年間被ばく線量二〇ミリシーベルト超)外の福島市や郡山市、福島県外で線量が比較的高い栃木県那須塩原市や宮城県丸森町で暮らす七人と、全国各地に自主避難する十二人。

 訴えでは、昨年六月に議員立法で支援法が成立したのに、支援対象地域や生活支援策を定める基本方針を理由なく策定しないのは、国の不作為で違法だと指摘。支援対象となる「放射線量が一定の基準を上回る地域」は、年間被ばく線量一ミリシーベルト超が目安だと主張し、事故当時、福島県外で暮らしていた原告も対象になるとしている。

 原告一人につき一円の損害賠償も請求。原告弁護団代表の福田健治弁護士は記者会見で「支援策を実施するよう求める裁判で、原告の個人的利益のためではないことを示すため」と意図を説明した。

 復興庁は「提訴が確認できないので、コメントを差し控えたい。子ども・被災者支援法の基本方針で定めることとされる(放射線量の)一定の基準の検討を進めており、できるだけ早く策定できるよう努めたい」としている。

◆「子どもの健康向き合って」
 「ほとんどの方が声を上げずにじっと我慢している。早くこの法律を具体化してください」。提訴後、会見した原告の小林賢泰(たかひろ)さん(40)は、支援の基本方針を定めようとしない国の姿勢を批判した。

 「四人の子どもを豊かな自然の中で育てたい」と福島県いわき市で林業を営んでいたが、原発事故で生活は一変。放射線量の下がらない古里を去り、山梨県を経て岐阜県内に家族と避難している。

 今の科学では、長期間低線量被ばくした時の健康被害は分かっていない。小林さんのように、自身や子どもの健康を心配し、避難指示区域以外から避難している多くの自主避難者には、国の支援はほとんどない。経済的、精神的に苦しい状況に置かれている。

 支援法の成立により、国の責任で健康や生活が守られるはずだった。一年以上たっても何も変わらない現状に、「国は事故の責任を取らず、被災者救済もしないのに、原発を再稼働し、海外に輸出しようとしている」と失望を隠さない。

 栃木県那須塩原市の伊藤芳保(よしやす)さん(50)は、原発事故から半年後、専門家に測定してもらった自宅の線量の高さにがくぜんとした。妻子は市外に引っ越し、自身は仕事のため自宅にとどまる二重生活を送る。「福島との県境で汚染は区切れない。健康調査など福島と同等の対応をしてほしい」

 福島市から岡山市へ自主避難している丹治泰弘(たんじやすひろ)さん(36)も「一人の不安はみんなの不安につながると思い、提訴した。国は、未来の子どもの健康に真剣に向き合ってほしい」と訴えた。

 <原発事故子ども・被災者支援法> 東京電力福島第一原発事故の被災者の避難生活や健康管理を支援するため、医療や就学・就業、住宅確保などの生活支援を定め、定期的な健康診断や被災した子どもや妊婦の医療費減免も国に義務づけた。支援対象は、放射線量が国の避難指示基準(年間被ばく線量20ミリシーベルト)以下だが、一定の基準を上回る地域の住民ら。自主避難者、避難からの帰還者いずれにも必要な支援を行うとしている。



 この問題については以前にも書いた。2013年6月22日のブログ
太字で一部再度強調。
“原告は、放射線量が国の避難指示区域(年間被ばく線量二〇ミリシーベルト超)外の福島市や郡山市、福島県外で線量が比較的高い栃木県那須塩原市や宮城県丸森町で暮らす七人と、全国各地に自主避難する十二人。

訴えでは、昨年六月に議員立法で支援法が成立したのに、支援対象地域や生活支援策を定める基本方針を理由なく策定しないのは、国の不作為で違法だと指摘。支援対象となる「放射線量が一定の基準を上回る地域」は、年間被ばく線量一ミリシーベルト超が目安だと主張し、事故当時、福島県外で暮らしていた原告も対象になるとしている”


 まったく妥当な主張だと思う。

 20ミリシーベルトという基準の問題は何度もこのブログで書いている。 
 その中から2011年12月16日のブログの内容を元に、放射能と政治について、問題を指摘したい。2011年12月16日のブログ
「原発事故子ども・被災者支援法」の放置は、法治国家のすることか!?_e0337865_16391245.jpg

肥田舜太郎・鎌仲ひとみ著『内部被曝の脅威-原爆から劣化ウラン弾まで』
 
 2011年5月28日のブログでも、ヒロシマで自らも軍医としてその日を迎え、その後、数多くの内部被曝患者の診断を経験した肥田舜太郎さんと、湾岸戦争で使用された劣化ウラン弾の内部被曝によるイラクの人々の被害を明らかにしたドキュメンタリー映画「ヒバクシャ」を制作した鎌仲ひとみさんの共著、『内部被曝の脅威-原爆から劣化ウラン弾まで』を紹介した。2011年5月28日のブログ
 同書「第4章 被ばくは私たちに何をもたらすか」から再び引用。

 人類史上、最大の人体実験ともいわれる広島・長崎への原爆投下があっても、内部被曝そのものに関しては長い間、言及されることはなかった。近年、ようやく内部被曝の存在が注目され、国際放射線防護委員会(ICRP)の見解とヨーロッパの科学者グループ、欧州放射線リスク委員会(ECRR)が出した見解がはっきりと二つに分かれるようになった。前者は内部被曝も体外被曝と同様に許容量を定め、後者は内部被曝の許容量をゼロ以外は安全ではないとしている。
 たとえば、たった一粒のプルトニウムが体内に入った場合、ECRRは体内で放出されるアルファ放射線がその人間に癌を発症させる可能性は十分にある、というのだ。ちなみに、この一粒はたばこの煙の粒子の20分の1の大きさしかない。
 ヨーロッパの科学者グループであるECRRが2003年に公表した報告によると、1945年から89年までに放射線被ばくで亡くなった人の数は6160万人になる。ICRPのこれまでの計算では117万人ということになっている。ECRRは現行の国際放射線防護委員会が設定する一般人の許容限度、1ミリシーベルト/年を0,1ミリシーベルト/年以下に、労働者の限度も50ミリシーベルト/年から0.5ミリシーベルト/年に引き下げるべきだと主張している。もし、これが実現すれば、原発の労働者だけでも100倍の人員が必要になる計算だ。これによって増加する人件費が原子力産業にとって経済的に見合わないことは明白だろう。
 だからこそ、ICRPは「合理的に達成できる限り低く保つ」と許容限度を勧告しているのだ。


 “6160万人 対 117万人”の差は、いったい何を意味するのか。ECRRとICRPと、どちらの主張を信じるかは人それぞれだろうが、もちろん私はECRRに軍配を上げる。ECRRの試算について、本書は次のように指摘している。
 

 内部被曝を再評価したECRRの新たな考え方に基づいた計算によると、死亡者数は6160万人に跳ね上がり、そのうち子供が160万人、胎児が190万人となる。これは本当に私たちにとって「容認」できる許容量なのだろうか?このことこそが今問われているのだ。
 内部被曝に関するしきい値を死守することは、アメリカ政府にとって重要な課題であったことは簡単に想像できる。もし、内部被曝の人体に与える影響が明らかになれば、あらゆる核開発の障害になることは確実だった。内部被曝はアメリカ国家の最重要機密になり意図的で巧妙な隠蔽工作が続いてきた理由がここにある。
 広島・長崎における原爆の影響は局所的であり、放射能汚染は問題にならない、放射線そのもので死んだ人間の数は少なく、投下後、三、四週間で死ぬべき者は全て死んだなどとアメリカ政府は喧伝し、放射能の長期にわたる影響を完全にそして公式に否定した。


 ここで指摘されている通り、アメリカ政府は、ヒロシマもナガサキも、あくまで投下直後の体外被曝による被害しか認めず、アメリカにおける内部被曝被害についての数々の指摘についても、「科学的な根拠」がない、とか「統計的に誤りがある」などという理由で、私が何度か取り上げた「マンクーゾ報告」も認めるはずはなかった。ちなみに、本書ではマンクーゾが調査したハンフォードでの内部被曝被害についても取り上げている。その中で、1987年にアメリカ政府が公開した19000ページに及ぶ機密文書によって明らかになった驚くべき事実として、ハンフォードにある9つの原子炉が日々の操業のなかで放出した放射性物質の総量が、スリーマイル島の事故の1万倍にも相当していたことが紹介されている。データは公開しても、アメリカ政府は、その放射性物質と、この地域での白血病やガンの高い発症率との因果関係は、決して認めようとしない。

 アメリカ政府がやってきたことと、日本政府がやっていることは、本質的に変らない。あくまで「政治」的な判断によって、もっと言えば自己の保身のために、数年後数十年後に起こりえる発症で国民が蒙る被害を犠牲にしようとしている。もちろん、問題が発覚した“その時”には、現在の政府関係者も官僚も、政治の表舞台には存在しないだろう。無責任な問題の先送りにしか過ぎない。

 そして、この「政治的な基準」の問題に目をつぶったまま、国民が「自助」努力で避難をし、心身ともに疲弊しているのに、安倍政権はいったい何をしているのか。

 大震災やフクシマのために、「健康」で「安全」な生活を奪われた国民のことに目を向けない国にオリンピックなど招致する資格はあるのか。

 そして、世界で真っ当な判断のできる方は、放射能で地球を汚染するにまかせている極東の島国で、世界大運動会などしようとはしないだろう。しかし、あのイベントも今では政治と経済、金にまみれたものなので、東京に決まるのかもしれない。経済効果はあるかもしれないが、それは先のことだ。
 今、いや3.11からずっと今までほとんど見放されている人達のことに、政府も東京都も、しっかり目を向けるべきだろう。

 何度も書いているが、憲法改正、TPP参加、社会保障制度の改悪などで国民を不幸にしようとばかりする安倍政権は、すでにもっとも国民として不幸な境遇にいる大震災とフクシマの被害者の救済を最優先課題とすべきである。それができないようなら、政治家と官僚には、年間“20ミリシーベルト”を少し下回る地域に、首相官邸、議員宿舎、官庁の施設、そして国会議事堂もつくって仕事をしてもらいたいものだ。そこは彼らが“安全”と主張しているのだから。
# by koubeinokogoto | 2013-08-23 22:54 | 原発はいらない | Comments(0)
最近は、大手新聞のニュースをほとんど信用せず、ブログや週刊誌のWebニュースを読むことが多いが、福島第一の汚染水漏洩問題について、「日刊ゲンダイ」のGendai.Netから引用したい。
「Gendai.Net」の該当記事

福島第1原発 汚染水タンク350個が全滅危機
【政治・経済】2013年8月21日 掲載


東電の安普請・ドロナワ作業で最悪事態


フクシマの汚染水問題は、“グローバル”な緊急課題だ!_e0337865_16395982.jpg

東京電力提供


 どうしたらこうなるのか。東京電力は福島第1原発のタンクから漏れた放射能汚染水の量を当初「少なくとも120リットル」と推定していたのに、20日になって「300トンに達する」と変更した。一気に2500倍に増えたことに絶句だが、汚染水の漏出量はこんなものでは済まない。

 東電はダダ漏れになっていた地下貯水槽の汚染水を、6月上旬までに地上タンクに移し替えた。タンクは直径12メートル、高さ11メートルの円柱状で、容量は約1000トン。漏れた300トンは大体、25メートルプール1つ分だ。

 実はこのタンクは当初から“ヤバイ”と指摘されていた。部材を溶接ではなく、ボルトでつないで組み立てる構造のため、ボルトが緩んだり、止水用パッキンが劣化すると、汚染水が漏洩するんじゃないかと懸念されていたのだ。

「過去に4回、タンクから汚染水漏れが起きていて、いずれもつなぎ目部分から見つかっています。今回はまだどこから漏れたか分かりませんが、恐らく、つなぎ目に原因があるのでしょう」(ジャーナリスト・横田一氏)

 東電によると、パッキンの耐用年数は5年ほど。交換するにはタンクそのものを解体しなければならないが、漏洩が見つかるたびに解体するのは非現実的だ。外側から止水材を塗るなど、その場しのぎの対応に追われることになりそうだ。

 問題はボルトとパッキンだけではない。タンクが“鋼鉄製”なのも大きな懸念材料という。日本環境学会顧問・元会長で元大阪市立大学大学院教授(環境政策論)の畑明郎氏が言う。

「汚染水は原子炉冷却に使われた水で、当初の海水冷却により塩分を含むものです。鋼鉄製のタンクは錆びやすく、腐食して穴が開き、漏れた可能性があります。安全性を考えるのであれば、東電は鋼鉄製ではなくステンレス製のタンクにすべきでした」

<錆びて腐食、止水用パッキンの寿命はたった5年>

 東電がそうしなかったのは、鋼鉄製の方がコストがかからないからだ。さらに言うと、溶接型ではなくボルト型にしたのも、短時間で増設できるから。いかにも東電らしいドロナワ対応といえるが、このボルト式の同型のタンクは敷地内に350個もある。もし、今回と同じ300トンの汚染水がすべてのタンクから漏れ始めたら、10万トンではきかない計算になるから、考えるだけでもゾッとする。

 しかも、汚染水は1日400トンのペースで増え続けていて、東電は現在貯蔵可能な約39万トン分のタンクの容量を2016年度までに80万トン分まで増やす計画だ。
 一方で安普請のタンクからの汚染水漏れの手当ても同時にやらなければならない。

 今回の汚染水からは、法令で放出が認められる基準(1リットルあたり30ベクレル)の数百万倍に達する8000万ベクレルの放射性ストロンチウムが検出された。300トン分で約24兆ベクレルである。

 はっきり言って東電は終わっている。



 いつものように、強調したい部分を太字で再度。
“鋼鉄製の方がコストがかからないからだ。さらに言うと、溶接型ではなくボルト型にしたのも、短時間で増設できるから。いかにも東電らしいドロナワ対応といえるが、このボルト式の同型のタンクは敷地内に350個もある。もし、今回と同じ300トンの汚染水がすべてのタンクから漏れ始めたら、10万トンではきかない計算になるから、考えるだけでもゾッとする”

 地下水汚染のことや原発によってどれほどの放射性物質が出来てしまうのかは先月も書いたので、ご興味のある方はご覧のほどを。
2013年7月13日のブログ

 東電の、あくまでも「経済性」を優先する姿勢には呆れるばかりだ。これは一企業の問題ではない。地下水やタンクから漏れた放射能汚染水は「公共」の海に流れ出る。

 海に「国境」はない。

 日本の漁業への影響や人体への影響も問題だが、この汚染水は近隣諸国のみならず、地球全体を汚染しているのだ。

 もはや東電には期待できない。規制委員会が強いリーダーシップを発揮するとは、誰も思っていないだろう。

 やたら、憲法改正やTPP参加には、強いリーダーシップを発揮しようとする安倍首相と政府が、この問題にもっとコミットしないでは、解決しようがないだろう。

 日本政府は、TPP参加、憲法改正、そして社会保障制度の改悪、年金の減額など国民を不幸にさせることに熱心なようだが、少しは国民のために仕事をしてもらいたい。
 
 人の「生命」に関わり、人類が住む「地球」に直接影響するこの問題の解決を何よりも優先すべきである。

 韓国や中国沿岸、そして太平洋を渡って北米沿岸まで汚染が広がるのは目に見えている。もう政治の駆け引きなどしている時ではないのだ。

 日本政府は、日本国民の安全のためのみならず、それこそ“グローバル”な視点でこの問題の解決に注力すべきだ。
# by koubeinokogoto | 2013-08-22 12:10 | 原発はいらない | Comments(0)

人間らしく生きることを阻害するものに反対します。


by 小言幸兵衛