「Nature」で明らかにされている安倍の大嘘—「内田樹の研究室」より。
内田は、この前の記事で「AERA」に書いた五輪招致反対の持論を再掲載していた。しかし、東京開催は決まった。安倍首相は、世界に向かって大嘘をついた。IOCのメンバーはどこまで真相を知っているのか分からないが、海外の科学者は、危険な実態をしっかり把握している。
「内田樹の研究室」の9月6日の記事
9月3日のNature のEditorialに福島原発からの汚染水漏洩への日本政府および東電の対応について、つよい不信感を表明する編集委員からのコメントが掲載された。
自然科学のジャーナルが一国の政府の政策についてここまできびしい言葉を連ねるのは例外的なことである。
東電と安倍政府がどれほど国際社会から信頼されていないか、私たちは知らされていない。
この『ネイチャー』の記事もこれまでの海外メディアの原発報道同様、日本のマスメディアからはほぼ組織的に無視されている。
(中 略)
海外の科学者たちが「福島の事故は対岸の火事ではない。私たち自身に切迫した問題だ」という危機意識を持って国際的な支援を申し出ているときに、東京の人間が「福島の事故は250キロ離れた『対岸の火事』ですから、五輪開催に心配ありません」と言い放っているのである。
怒りを通り越して、悲しみを感じる。
英語を読むのが面倒という読者のために『ネイチャー』の記事の抄訳を試みた。
破壊された福島の原子力発電所から漏洩している放射性物質を含んだ流出水は、1986年ウクライナでのチェルノブイリ・メルトダウン以後世界最大の原子力事故の終わりがまだ見通せないことをはっきりと思い出させた。
2011年3月に福島原発に被害を与えた地震と津波の後、この地域を除染するための努力は今後長期にわたるものとなり、技術的にも困難であり、かつとほうもない費用を要するものであることが明らかとなった。
そして今またこの仕事が原発のオーナー、東京電力にはもう担いきれないものであることがあらわになったのである。
日本政府は9月3日、東電から除染作業を引き継ぐ意向を示したが、介入は遅きに失した。
事故から2年半、東電は福島の三基の破壊された原子炉内の核燃料の保護措置についての問題の本質と深刻さを認識していないことを繰り返し露呈してきた。
毎日およそ40万リットルの水がロッドの過熱を防ぐために原子炉心に注水されている。汚染された水が原子炉基礎部に漏水し、コンクリートの裂け目を通じて地下水と近隣の海水に拡がっていることを東電が認めたのはごく最近になってからである。
東電以外の機関による放射能被曝の測定は難しく、私たちが懸念するのは、この放射能洩れが人間の健康、環境および食物の安全性にどのような影響をもたらすことになるのかが不明だということである。
問題はそれにとどまらない。使用済みの冷却水を保存している1000の貯蔵庫があり、これらは浄化システムによる処理を経ているにもかかわらずトリチウムやその他の有害な放射性核種を含んでいる。漏洩はこのシステムがいつ爆発するかわからない時限爆弾(laxly guarded time bomb)だということを明らかにした。
肝腎な部分を太字で再確認。
“事故から2年半、東電は福島の三基の破壊された原子炉内の核燃料の保護措置についての問題の本質と深刻さを認識していないことを繰り返し露呈してきた。
毎日およそ40万リットルの水がロッドの過熱を防ぐために原子炉心に注水されている。汚染された水が原子炉基礎部に漏水し、コンクリートの裂け目を通じて地下水と近隣の海水に拡がっていることを東電が認めたのはごく最近になってからである。
東電以外の機関による放射能被曝の測定は難しく、私たちが懸念するのは、この放射能洩れが人間の健康、環境および食物の安全性にどのような影響をもたらすことになるのかが不明だということである”
政府は東電に責任をかぶせようとするだろうが、原発を推進したのも、フクシマを起こしたのも、そして事故後の対応における無為無策についても、政権与党が変わっていようが、政府の責任は免れない。特に、自民党は、原発予算をなし崩しに通した中曽根から続く犯罪に近い過去の歴史を背景としている。
すでに漏れていることに加え、毎日大量の放射能汚染水が作られている、という現実・・・・・・。
8月22日のブログで掲載した「日刊ゲンダイ」(Gendai.Net)の記事を再度引用したい。
「Gendai.Net」の該当記事
福島第1原発 汚染水タンク350個が全滅危機
【政治・経済】2013年8月21日 掲載
東電の安普請・ドロナワ作業で最悪事態
東京電力提供
どうしたらこうなるのか。東京電力は福島第1原発のタンクから漏れた放射能汚染水の量を当初「少なくとも120リットル」と推定していたのに、20日になって「300トンに達する」と変更した。一気に2500倍に増えたことに絶句だが、汚染水の漏出量はこんなものでは済まない。
東電はダダ漏れになっていた地下貯水槽の汚染水を、6月上旬までに地上タンクに移し替えた。タンクは直径12メートル、高さ11メートルの円柱状で、容量は約1000トン。漏れた300トンは大体、25メートルプール1つ分だ。
実はこのタンクは当初から“ヤバイ”と指摘されていた。部材を溶接ではなく、ボルトでつないで組み立てる構造のため、ボルトが緩んだり、止水用パッキンが劣化すると、汚染水が漏洩するんじゃないかと懸念されていたのだ。
「過去に4回、タンクから汚染水漏れが起きていて、いずれもつなぎ目部分から見つかっています。今回はまだどこから漏れたか分かりませんが、恐らく、つなぎ目に原因があるのでしょう」(ジャーナリスト・横田一氏)
東電によると、パッキンの耐用年数は5年ほど。交換するにはタンクそのものを解体しなければならないが、漏洩が見つかるたびに解体するのは非現実的だ。外側から止水材を塗るなど、その場しのぎの対応に追われることになりそうだ。
問題はボルトとパッキンだけではない。タンクが“鋼鉄製”なのも大きな懸念材料という。日本環境学会顧問・元会長で元大阪市立大学大学院教授(環境政策論)の畑明郎氏が言う。
「汚染水は原子炉冷却に使われた水で、当初の海水冷却により塩分を含むものです。鋼鉄製のタンクは錆びやすく、腐食して穴が開き、漏れた可能性があります。安全性を考えるのであれば、東電は鋼鉄製ではなくステンレス製のタンクにすべきでした」
<錆びて腐食、止水用パッキンの寿命はたった5年>
東電がそうしなかったのは、鋼鉄製の方がコストがかからないからだ。さらに言うと、溶接型ではなくボルト型にしたのも、短時間で増設できるから。いかにも東電らしいドロナワ対応といえるが、このボルト式の同型のタンクは敷地内に350個もある。もし、今回と同じ300トンの汚染水がすべてのタンクから漏れ始めたら、10万トンではきかない計算になるから、考えるだけでもゾッとする。
しかも、汚染水は1日400トンのペースで増え続けていて、東電は現在貯蔵可能な約39万トン分のタンクの容量を2016年度までに80万トン分まで増やす計画だ。
一方で安普請のタンクからの汚染水漏れの手当ても同時にやらなければならない。
今回の汚染水からは、法令で放出が認められる基準(1リットルあたり30ベクレル)の数百万倍に達する8000万ベクレルの放射性ストロンチウムが検出された。300トン分で約24兆ベクレルである。
はっきり言って東電は終わっている。
太字で再度。
“鋼鉄製の方がコストがかからないからだ。さらに言うと、溶接型ではなくボルト型にしたのも、短時間で増設できるから。いかにも東電らしいドロナワ対応といえるが、このボルト式の同型のタンクは敷地内に350個もある。もし、今回と同じ300トンの汚染水がすべてのタンクから漏れ始めたら、10万トンではきかない計算になるから、考えるだけでもゾッとする”
東電の怠慢による現状の“欠陥タンク”を、本来のステンレス製で溶接するタイプの頑丈なタンクに替えて、“欠陥タンク”の汚染水を移し替えるのに、どれだけの費用と時間と困難が伴うのか、私にはわからない。
しかし、オリンピックのためにこれからも投じられるだろう国家予算を上回るとは思えない。
たしかに政府がこの重要問題に対処するのは遅きに失したかもしれない。しかし、今すぐ取りかからなければ、“欠陥”タンクから放射能にまみれた水が、どんどんこぼれるばかりだろう。
みちろん、地下をどうするかも重大かつ緊急課題だ。
世界の英知を集中させて、解決とりかからないのなら、七年後の日本は、オリンピックどころではなくなるだろう。
再度、「内田樹の研究室」の該当記事から引用。
漏水は当初ただの「異常」とされたが、のちに真性の危機(a genuine crisis)であることがわかったのである。
日本は国際的な専門家に支援のための助言を求めるべきときを迎えている。米国、ロシア、フランス、英国などは核エンジニアリング、除染および放射線の健康被害についてのノウハウを持っており、日本の役に立つはずである。
国際的な研究と除染のための連携はモニタリングと危機管理の有用性と有効性についての粉々に打ち砕かれた信頼(shattered public trust)を回復するための一助となるであろう。
漏水が最も大きな影響を及ぼすのは福島沖とそこから拡がる太平洋への影響である。この影響については精密なモニターがなされなければならない。
日米の科学者によって2010年と2011年に行われたアセスメントでは二つの重大な問題が答えられぬまま残った。どれだけの放射能が海洋に浸入しているのか?原発事故以後長い時間が経ったにも拘わらずいくつかの種において高いレベルの放射能が検知されているわけだが、問題の地域の魚介類の消費がいつ可能になるのか?漏水によって、これらの問いへの答えることが喫緊の課題となっている。
「異常」ではなく、「真性の危機」(a genuine crisis)、という言葉には、「他の大部分が正常で、一部が異常」ということではなく、「大部分が問題あり」ということだ。
オリンピック招致を喜ばない国民が「異常」な状況が、「大部分の国民が喜ばない」ことに変わるのは、案外そう先のことではないかもしれない。
海産物資源や飲料水が危険にさらされ、住んでいる環境が放射能に日々汚染されていった場合、果たして、国をあげて「お祭り」などをする気持ちになれるのか。生活の基盤を脅かされて、「世界大運動会」などを楽しむ心の余裕など生まれるはずがないのではなかろうか。
日本のイデオロギーを表現する言葉に「空気」がある。KYは「空気を読めない」という意味なのはご存知の通りだが、このままでは生きるための「空気」も「水」も放射能まみれになりかねない。
政府は、原子力ムラを再組織化し、御用学者たちを動員して、再び「安全神話」を浸透させようとするのだろう。そして、「8.15」や「3.11」に至ったのと同じ、「空気」に支配され、何ら長期的展望も持たず、誰も責任をとるつもりのない「ニッポン・イデオロギー」(笠井潔の言葉より)で、新たに悲劇的な「○.○○」を迎えようとしている。
あえて『論語』から、「過ちては改むるに憚ること勿れ」という言葉を記しておこう。アメリカの属国となる前に、日本人は中国の古典から数多くのことを学んだ。日清、日露戦争の指導者の座右には、四書五経があった。
都市化をどんどん進め「地縁」「血縁」を積極的に崩壊させ、アメリカの核の傘の下で呑気に平和を享受して、迎えた「3.11」。
フクシマの放射能問題解決の方向性は、「元の自然環境に戻す」ことであって、昨日より今日、今日より明日、という近代化のための右肩上がり的な進歩を目指すのとは、大きく違ったものである。あえて言うならば「古き良き時代」を取り戻す行為である。それは、しょうがないのだ。汚してしまったのだから。
いっそ、汚してしまった日本人の精神も、取り戻せないものか。その学ぶべき相手は太平洋の向こうではなく、すぐ近くのアジアにいるように思う。