幸兵衛の小言

koubeinoko.exblog.jp
ブログトップ

「安定ヨウ素剤」は、なぜ服用されなかったのか-「中間報告」より

フクシマはまだ収束しているわけではないが、そろそろ、あの時に何が起こり、為すべきどんなことが為されなかったのか、を振り返ってもいいかもしれない。
 
 「失敗学」の権威である畑村洋太郎教授を委員長とする政府の「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」が昨年末に発表した「中間報告」を、下記URLからダウンロードすることができる。
「事故調査・検証委員会の中間報告」掲載ページ

 分冊されたPDFの5つ目は、次のような項目についての報告である。
------------------------------------------------------------------------
Ⅴ 福島第一原子力発電所における事故に対し主として発電所外でなされた事故対処

1 環境放射線モニタリングに関する状況
2 SPEEDI情報の活用及び公表に関する状況
3 住民の避難
4 被ばくへの対応
5 農畜水産物等や空気・土壌・水への汚染
6 汚染水の発生・処理に関する状況
7 放射性物質の総放出量の推定及びINES
8 国民に対する情報提供に関して問題があり得るものの事実経緯
9 国外への情報提供に関して問題があり得るものの事実経緯
10諸外国及びIAEA等国際機関との連携
------------------------------------------------------------------------

 この中の「4 被ばくへの対応」の「(5)住民の被ばくについて」の中から「e 安定ヨウ素剤の配布」の部分(306ページから309ページ)を紹介したい。重要と思う部分に色を付けた。
 なお、文中に登場する「ERC」とは「経済産業省緊急時対応センター」のこと。中間報告によると、経済産業省別館3階に置かれたらしい。

e 安定ヨウ素剤の配布
 安定ヨウ素剤とは、放射性を有しないヨウ素を主成分とする薬剤であって、被ばくに先立ってこれを服用すると放射性ヨウ素が体内に取り込まれた後も甲状腺に蓄積するのを防ぐことができるため、甲状腺がん等の発生を防止するために使用される。
 安定ヨウ素剤の服用の判断について、平成14 年4 月に安全委員会が取りまとめた「原子力災害時における安定ヨウ素剤予防服用の考え方について」は、「災害対策本部の判断により、屋内退避や避難の防護対策とともに、安定ヨウ素剤を予防的に服用すること」としている。また、その中で、副作用の懸念は示しつつ、放射性ヨウ素による小児甲状腺等価線量が100mSv に達すると予測され、災害対策本部が安定ヨウ素剤予防服用の指示を行った場合には、周辺住民等が確実かつ可及的速やかに服用できるようにすることが必要であるとしている。
 原災マニュアルは、オフサイトセンターに設置された原子力災害合同対策協議会において、安全委員会の緊急技術助言組織構成員が現地対策本部の医療班に技術的助言を行い、緊急事態対応方針決定会議が予防服用方針案を決定して国の原災本部に報告し、原災本部の決定を受けて、原災本部長から現地対策本部長へ、現地対策本部長から道府県知事へ、更に道府県知事から住民に対し、順次、安定ヨウ素剤服用の指示をすることとしている。
 現地対策本部は、3 月12 日13 時15 分、県及び関係町(大熊町、双葉町、富岡町、浪江町)の首長に対し、「ヨウ素剤投与が決定された場合に備え、避難所への安定ヨウ素剤の搬入準備の状況を確認するとともに、薬剤師や医師の確保に努めること」との指示文書を発出した。
 また、前記bのとおり、現地対策本部がスクリーニングレベルを40Bq/cm2又は6,000cpm とする案についてERC に意見・助言を求めた際、これに対してコメントをした安全委員会は、あわせて、スクリーニングの際に1 万cpm を超えた者には安定ヨウ素剤の服用も指示すべきであるとするコメントを付してERC に送付した。しかし、現地対策本部にはこのコメントが伝わらなかった
 14 日夜、ERC 医療班は、20km 圏内の入院患者の避難が終わっていないという情報を入手し、安全委員会に伝えた。これを受け、数時間後の15 日3 時10 分、安全委員会は、ERC に対し、「避難範囲(半径20km 以内)からの入院患者の避難時における安定ヨウ素剤投与について」により、入院患者が避難する際に安定ヨウ素剤を投与すべきとする助言を出し、ERC は、これを現地対策本部に送付した。しかし、現地対策本部は、同日、福島県庁への移転作業を行っており、この助言を記載したFAX に気付いたのは、福島県庁へ移動した後の同日夕方頃であった現地対策本部は、入院患者以外に老人施設の高齢者や病院スタッフが残っている可能性も考え、服用指示の対象を入院患者に限定しない指示案を作成するとともに、同日夜、ERC に対し、「安定ヨウ素剤の服用指示をすべき対象者を 20km 圏内の全ての残留者に拡大したい」旨を伝えた。そこで、ERC は、安全委員会に対し、助言を要請し、安全委員会は、16 日1 時25 分、ERC に対し、「避難範囲(半径20km 以内)の残留者の避難時における安定ヨウ素剤投与について」により、20km 圏内の残留者一般についてその避難の際に安定ヨウ素剤を投与すべきであるとする助言をした。ERC を介してこの助言を確認した現地対策本部は、同日10 時35 分、福島県及び12 の関係市町村の首長に対し、「避難区域(半径20km)からの避難時には安定ヨウ素剤を投与すること」との指示を文書で発出した。しかし、県は、20km 圏内には対象者がいないことを確認済みであるとの理由により、ヨウ素剤服用の指示は行わなかった。
 なお、安定ヨウ素剤の備蓄については、防災基本計画により、「国〔文部科学省、厚生労働省〕、日本赤十字社、地方公共団体及び原子力事業者は、放射線測定資機材、除染資機材、安定ヨウ素剤、応急救護用医薬品、医療資機材等の整備に努めるものとする。」と規定されており、福島第一原発及び福島第二原発の周辺の6 町(広野町、楢葉町、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町)は、「福島県緊急被ばく医療活動マニュアル」に基づき、EPZ(防災計画を重点的に充実させるべき地域の範囲で10km 圏内の地域)の服用対象(40 歳未満)人口の3 回分に相当する合計13 万6,000 錠の安定ヨウ素剤を事前に備蓄していた。また、EPZには含まれないいわき市や郡山市も、独自に安定ヨウ素剤の備蓄を行っていた。
 また、県は、旅行者等の滞在者用として大熊町の環境医学研究所に6 万8,000錠の安定ヨウ素剤を備蓄していたほか、ERC 等を通じて安定ヨウ素剤の確保を要請し、ヨウ素剤大手メーカーや茨城県から、約136 万錠を入手した。
 県は、3 月14 日、原発から約50km 圏内の全ての自治体に安定ヨウ素剤を配布することを検討し、対象地域の40 歳未満の住民一人当たり2 錠を各市町村に配布することを決定した。浜通りと中通り地区を対象に、3 月20 日までに、錠剤だけで約100 万錠の安定ヨウ素剤を各市町村に配布した。
 なお、福島第一原発周辺の幾つかの市町村は、3 月15 日頃から、独自の判断で、住民に安定ヨウ素剤の配布を行っていた。例えば、三春町は、3 月15 日、配布のみならず、服用の指示もした。三春町は、14 日深夜、女川原子力発電所の線量が上昇していること、翌15 日の天気予報が東風の雨で、住民の被ばくが予想されたことから、安定ヨウ素剤の配布・服用指示を決定し、同日13 時、防災無線等で町民に周知を行い、町の薬剤師の立ち会いの下、対象者の約95%に対し、安定ヨウ素剤の配布を行った。なお、三春町が国・県の指示なく安定ヨウ素剤の配布・服用指示をしていることを知った福島県保健福祉部地域医療課の職員は、同日夕方、三春町に対し、国からの指示がないことを理由に配布中止と回収の指示を出したが、三春町は、これに従わなかった。


 政府や経産省など関係組織が「パニック」を恐れて枝野を通じ国民に嘘をついていた時、もっともパニックに陥っていたのが、災害対策を担うべき政府中枢であったことが分かる。

 今では、様々な専門家の発言や書籍などで明らかにされているように、「安定ヨウ素剤」が小児の甲状腺ガンを防ぐために特に有効であり、その服用は事故後速やかに行われるべきであった。

 しかし、中央から現地への肝腎のコメントは伝わらず、FAXを見るのは遅れる。とは言え、連絡の不手際や判断ミスがあったとしても、現地の対策本部を批難するのは酷だろう。それこそ、住民を安全に避難させることが優先したはずだから。それも、政府の五月雨式の避難地域拡大などに、右往左往させられながら。

 だから、「安定ヨウ素剤」の問題一つとっても、中央の政府およびERCなど国の災害対策組織が、そういった状況も見越して、小児を中心に速やかに「安定ヨウ素剤」の「服用」を実現する方策を検討し実施すべきだった。

 今思うと、少なくとも3月14日の三号機の水素爆発後、危険区域の小児を優先して「服用」されるべきであったと思うが、残念ながら、実施された形跡はない。紹介した中間報告の内容で、「服用」の文字は、独自の判断で行った市町村(三春町など)の部分のみで、他の地域では「備蓄」が「配布」されたのは分かるが、いつ「服用」されたのかは、この文章だけでは分からない。たぶん、せいぜい「配布」までだったはずで、地域によっては「配布」もされていない。

 この報告に中で、「国からの指示がない」として県の保健福祉部地域医療課の職員が配布中止と回収を指示したことを拒否した三春町には、海水注入について官邸から中止指示があったのにも関わらず注入し続けた吉田前所長と同じような、「現場」の強さを感じる。「事故は現場で起こっている」のである。しかし、現場は“心身”ともに喧騒に包まれているだろう。あまりにも「危険」が身近に迫っているのだから。だからこそ、現場の危機を救う中央のリーダーが必要なのである。

 果たして、危機管理のために求められる理想のリーダー像とは、どんなものなのだろう。

 危機の迫った“現場”で行うべきことを、現場を離れた場所で出来る限りの情報を集め、対策検討に相応しい英知を集め、冷静かつ沈着に状況を分析し、優先順位を的確に判断し対策を立案し、強い「意志」でやり抜く。そういった資質がリーダーには必要なのだと思う。もちろん、そんなリーダーは、そう多くはない。しかし、実際に起こったことは、その理想とは余りにも乖離したリーダー達による度重なる不手際で、事態を悪化させるばかりではなかったのか。

 結果として、事故後速やかに危険区域の子ども達を優先して服用されるべき「安定ヨウ素剤」が、的確なタイミングで「服用」されることがなかった。この事実を政府関係者は、重く受け止めるべきである。そして、その償いとして、今後のフクシマの子供たちを含む全ての被害者である人々の健康維持や快復について、文字通り、“最大限の努力”をしなければならない。

 この「中間報告」には、例の“海水注入”時の官邸の混乱ぶりなども含め、他にも紹介したい部分が数多くあるが、今回はここまでとしたい。

[PR]
名前
URL
画像認証
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by koubeinokogoto | 2012-01-18 14:25 | 原発はいらない | Comments(0)

人間らしく生きることを阻害するものに反対します。


by 小言幸兵衛