曽野綾子コラムに関する海外メディアの記事-「内田樹の研究室」より。
あの曽野綾子の産経コラムにおけるトンデモ発言について、海外ニュースの翻訳をしてくれている。(太字は管理人)
「内田樹の研究室」の該当記事
アパルトヘイトをめぐるThe Daily Beast の記事から
曾野綾子が産経新聞のコラムに掲げた「アパルトヘイト支持」発言について、海外のメディアはこれを大きく取り上げない日本の主要メディアと政府の不誠実さに対してつよい懸念を抱いている。
一人の人間が人種差別的な思想の持ち主であることは、その想念がその人の脳内にとどまる限り咎めることはできないし、咎めるべきでもない。けれども、それを公開するときは、それが伴う「社会的責任」がどのようなものかを意識する必要がある。大人なら、誰でもそうしている。
曾野綾子の知性が不調なのは、彼女の個人的信念が世界標準では「許されない非人道的なもの」として認定されているという「事実」を勘定に入れることを怠った点にある。
そして、さらに問題なのは、このように低調な知性の持ち主に定期的なコラムを掲載していた新聞が存在し、そのような人物を教育政策の諮問機関に「有識者」として登用してきた政府が存在するという事実の方である。
個人の頭の悪いのは処罰ではなく教化の対象である。だが、公的機関が愚鈍であることについては、そのような教化的善意では応じることはできない。
それははっきりと国益を損なうふるまいであり、それが私たち日本人ひとりひとりに長期にわたって有形無形の損害をもたらすからである。
The Daily Beast の記事はその記事内容の適否とは違う水準で「このような記事が海外メディアで配信されているという事実がもたらす国益損失」がどういうものかを教えてくれる。
この後から記事の翻訳なのだが、これまでは、私がオリジナルの記事を探してリンクしてきたが、今回は、しっかり(?)と下記のURLを紹介してくれている。
The Daily Beastの該当記事
では、同記事の内田先生の翻訳である。
南アフリカ、日本の作家をアパルトヘイト支持を糾弾
曾野綾子が人種隔離体制を称賛して、これを日本がめざすべきモデルとして示唆したコラムが憤激と反響を巻き起こしている。
2月11日、著名な作家であり、日本の総理大臣の教育政策についての元アドバイザーである人物が日本の全国紙の一つのコラム内で南アフリカにおける人種隔離政策(アパルトヘイト)を日本の移民政策のモデルとして称賛する文章を発表した。
以来、曾野綾子(83歳)のこのコラムは国際的なスキャンダルと困惑の種となっている。
このスキャンダルを日本の主要メディアは当初は無視した。だが、2月13日日本の南アフリカ大使館がこのコラムを掲載した産経新聞に抗議文を送り、新聞と作家と日本それ自体をきびしく批判した。大使館は月曜夜に抗議文のコピーを日本語と英語で大使館のフェイスブックに掲示した。
アパルトヘイトは人道に対する犯罪である。これは21世紀において正当化されることのできぬものである。産経新聞は翌日オンライン記事内で南アフリカ政府からの抗議を受け取ったことを認めた。産経新聞は抗議内容を要約して、すでに本紙宛てに示されたステートメント(本紙はひとつの意見を掲載しただけであり、それに対してさまざまな反応があると思う)を繰り返した。産経新聞はさらに新聞はアパルトヘイトを支持したり、許容したことはなく、「人種差別もどのような差別も許されるべきではないと考えている」と付け加えた。
共同通信その他の日本の新聞はその段階になってはじめてこの消息を伝えた。だが、日本最大の日刊紙である保守系の讀賣新聞は曾野綾子が安倍晋三首相の教育政策についてのアドバイザーであった事実も、彼女が日本の文科省によって昨年全国の中学に配布されたテキストブックに大きく取り上げられた事実も報道しなかった。この「私たちの道徳」とタイトルされたテキストブックの中で彼女は「誠実」のモデルとして取り上げられていたのである。
日本の主要メディアが曾野および産経新聞の批判に及び腰である理由の一つは安倍首相が日本のメディアグループのトップたちと定期的にほぼ同時期に(たいていは重要な政治的アナウンスメンや政治的決定の直前に)ワインとディナーを共にしていることにあるように思われる。そのように親密な関係を構築することでメディアが首相や首相周辺の人物を批判することに気後れや困難さを感じる雰囲気が日本文化の中に醸成されてきている。
この議論に対する非体制的メディアとインターネットの対応はきわめて激烈なもので、10万人以上の人々が怒りと嫌悪感を表わしている。本紙の英訳コピーは1万以上のビューを記録した。
安倍首相は問題発言をする人々とのかかわりやレイシストを閣僚に指名したことで同様のニュースをたびたび提供している。
2月15日版の産経新聞において、曾野綾子は批判に対して次のように回答した。「私の文章の中で、私はアパルトヘイト政策が日本において進められるべきだとは述べていない。私はただ生活習慣の異なる人たちと暮らすことは難しいという個人的な経験について書いただけである。」
これでは南アメリカ大使Mohau Phekoから産経新聞編集者宛ての抗議文に作家も新聞も答えているとは言えない。抗議文はこれまで書かれたどのようなものよりもはっきりとこの問題を論じているからである。
重要なのは、いかなる国においても人種隔離を政策的選択として称揚することを許さないために、アパルトヘイトをその正しい文脈に置くことである。
南アフリカ国民は人種的に三つのカテゴリーのうちのいずれかに分類されていた。白人、黒人(アフリカ人)または有色人種(混血系)、およびアジア人である。これらのカテゴリーへの分類は皮膚の色、外見、社会的承認および血統に基づいてなされた。不服従は厳しく処罰された。これらの法律に基づいて、アパルトヘイト体制下では黒人たちを恣意的に拷問し、拘禁することが可能になり、黒人たちはわずかな賃金を稼ぐためにきわめて屈辱的な条件で働くことを強いられたのである。
著名なコラムニストであり、作家である曾野は本気でこのような危険でアルカイックな法律を介護移民の日本への導入のために提案しているのだろうか?国連の名誉あるメンバーであり、2016年の国連安保理事会の非常任理事国の席を目指している日本に、このような法律を考慮するいかなる理由があるというのだろうか?
アパルトヘイトは人道に対する犯罪である。世界中のどこであれ、皮膚の色やその他の指標に基づいて他の人間を区別しようとすることは21世紀においては決して正当化されることではない。
ネルソン・マンデラ大統領はかつてこう語った。「いかなる人間も皮膚の色や、その出自や、その宗教ゆえに他の人間を憎むように生まれついてはいない。人は憎むことを学ばねばならない。そしてもし人が憎むことを学ぶことができるのだとしたら、同様に愛することも教えられるはずである。なぜなら愛は人間の心にとって憎しみよりも自然なものだからだ。」
日本政府ははっきりと曾野との立場の違いを強調しようとして、彼女はすでに首相の諮問機関であり日本の現在の「道徳教育」の創造を支援している教育再生実行会議のメンバーではないことを指摘している。
ロイターによれば、菅義偉内閣官房長官は定例の記者会見で曾野の発言についてはコメントせず、ただ「わが国の移民政策は平等に基づいており、それは日本においては保証されている」と繰り返した。
曾野は長きにわたって安倍首相が総裁である自民党のアドバイザーであり、首相夫人の友人でもあると伝えられている。
安倍晋三は、グローバルという言葉が好きなようだが、アパルトヘイトに関する、グローバル・スタンダード(アメリカン・スタンダードではない)な見解は、上記の記事で示されている通りである。
口先だけで、「人種差別に反対する」と唱えていても、周囲に曽野綾子のような人物がいることで、安倍政権を不安視するのは、当たり前だ。
そして、つい最近の安倍晋三の靖国参拝への発言である。
彼は、私人であろうが、公人であろうが、その発言が世界でどう受け取られるかという配慮をしなければならない立場にいる。無防備で、軽率な発言が、尊い生命を失うことにもつながるのだ。
たとえば日中関係にしても、せっかく、春節の休暇で、多くの中国の方が日本を訪れて親日家が増えようと、彼の一言により、政治的に経済的に日本が打撃を受けることを十分に認識すべきである。
実は、今日はウォールストリート・ジャーナルの来日中のアメリカ議員団の安部政権への危惧表明の記事を紹介しようと思っていた。関連するので、一部引用する。
ウォールストリート・ジャーナルの該当記事
安倍首相の歴史観で日米関係にかげり 訪日米議員が漏らす
By JACOB M. SCHLESINGER
2015 年 2 月 18 日 11:14 JST
【東京】今週東京を訪れている米国の議員らによると、安倍晋三首相の歴史観が日米関係の将来にとって最大の懸念材料になっているという。
ダイアナ・デゲット下院議員(民主)は16日、一部の記者団との会見で、「第2次世界大戦終戦70周年に関連したこれらの問題の一部が両国関係にひびをもたらす可能性がある」と述べた。
同議員は「日本が慰安婦問題やその他の終戦時期あたりのいくつかの問題で逆戻りをしていると見なされないことが本当に重要だ」とし、慰安婦問題に関する米国歴史学者と日本政府の間の論争に言及した。
デゲット議員らとともに10人の超党派訪日下院議員団に参加したジェームズ・センセンブレナー議員(共和)は「われわれの道にはでこぼこがあったが、今はこれを平らにする時だ」とし、安倍首相の「修正主義歴史観」は「近隣諸国との関係」に打撃を与えていると述べた。その上で、「これはクールダウンさせなければならない」と付け加えた。
議員団の訪日は、米国議会日本研究グループと笹川平和財団USAがスポンサーとなった。前者の共同座長を務めるデゲット議員は、今回の訪問について、同グループが1993年に設立されてから行われている訪日の一環だとし、人数は1年前の4人の倍以上になったと指摘した。
参加者は民主党が6人、共和党が4人で、この中にはジョセフ・ケネディ議員(民主)もいて、同議員は日本で特にキャロライン・ケネディ駐日大使に会いたいとしている。ケネディ議員は、大使の父である故ケネディ大統領の弟、故ロバート・F・ケネディ氏の孫。
このように、アメリカの議員も、安倍政権を大いに不安視し、その発言や行動を注視している。
産経や読売に対して、他の日本のメディアが適切な問題指摘をしないようであれば、残念ではあるが、今後も海外メディアに頼るしかないかもしれない。
よって、「内田樹の研究室」の記事も、海外メディアの翻訳が続きそうだ。
もちろん、その場合は、適宜、拙ブログでも紹介したい。